欧州で飛行機内ケータイOKの流れ。日本は?保田隆明の時事日想

» 2008年04月10日 08時48分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

 欧州で、EU空域内を飛行中の航空機の中で携帯電話の使用が可能になりそうだ(参照記事)というニュースが、今週いくつかのメディアで取り上げられていた。機内での利用マナーなど対応しないといけない問題はあるが、飛行機で目的地に到着するやいなや携帯電話の電源を急いで入れる人の多さを見ると、機内での携帯解禁を歓迎する人は、日本でも少なくないのではないか。

航空会社、通信会社に収益拡大の機会提供

 航空機内での携帯電話利用が解禁されたら、誰にメリットがあるだろうか。まず、最も解禁したいのは航空会社だろう。携帯電話の利用が可能になれば、現在新幹線に流れているビジネス客の一部を奪うことができるはずだからだ。新幹線では携帯電話が使えるのみならず、最近はPCで仕事がしやすいようにテーブルをPC仕様にして電源をたくさん設置した車両が登場している。また、2009年春からは無線LANの対応も開始予定とのことで(参照記事)、多忙なビジネスパーソンにとっては、それだけで飛行機ではなく新幹線を選ぶ大きな理由となりうる。これは、都心で働く忙しいビジネスパーソンが、携帯電話がつながるという理由だけで都心部の移動に地下鉄ではなくタクシーを利用するのと同じ理屈である。

 なお、携帯電話事業者にとっては、飛行機内での携帯解禁は単純にユーザーの携帯利用可能時間が伸びることを意味し、収入増加につながる。従って、彼らが携帯解禁に反対する理由はない。

部分解禁ではオペレーション上負荷が高まる

 人々が飛行機の中で携帯を活用したいのは、通話やメールのやり取りに限らない。例えば、ワンセグ機能で録画をしておいた番組を見る、内蔵されたゲームを楽しむ、過去に撮った写真を編集する、メールの下書きをするなど、通信以外の用途を挙げればキリがない。最近は航空会社によっては、通信機能をオフにしてそれら通信以外の機能だけを利用する設定を行えば、機内での携帯電話での利用を認める(参照記事)ケースも出てきている。

 こういった通信以外の機能を使いたい人は今後も増えてくるだろう。携帯利用の部分解禁は顧客満足度の向上にはつながるかもしれないが、航空会社にとっては顧客に対して説明業務、確認業務などが増えることになり、オペレーション上の負荷が重くなるだけである。航空会社にとっては一律禁止、または原則解禁のどちらかが業務上は楽だ。

 ただ、部分解禁ではなく原則解禁にした場合も、当初は利用マナーの徹底や解禁を好ましく思わない顧客への対応など、業務上の負荷は相当高まるだろう。携帯電話の利用解禁が欧州の航空会社にとってどれぐらいのプラスとマイナスになるのか、国内の航空会社は注意深くモニターしていくことになる。

電波が届かないからこそ飛行機を利用する客も

 ビジネスパーソンの中には、新幹線ではなく会社から絶対に電話がかかってこない飛行機での移動を好む人もいるかもしれない。実際私が以前働いていた職場でも、「出張のときに飛行機が離陸して、しばらく音信不通になれる時間が最高に幸せ」と言っていた社員もいた。機内は、仕事のことを考えなくていい束の間の休息ともなりえるのだ。

 機内で仕事をしたい人とくつろぎたい人、どちらが多いかは分からないが、米国や欧州と対べると、欧米のビジネスパーソンは飛行機の中でバリバリ働くが、日本ではお酒を楽しんだり、スポーツ新聞を読んだり、あるいは寝ている人が多いようだ。そういう背景を考えると、もし日本で飛行機内での携帯電話の利用を解禁した場合、一部のビジネスパーソンは返って喜ばない可能性がある。むしろ携帯解禁を歓迎するのは、“お風呂にも携帯電話を持ち込むことが当たり前”な若年層なのかもしれない。

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