預金残高2兆円を達成させ、ソニー銀行のブランド確立へソニー銀行社長インタビュー(1/2 ページ)

» 2008年04月08日 08時00分 公開
[フィナンシャルリッチ特集取材班,Business Media 誠]
ソニー銀行の石井茂社長

 銀行口座は生活に不可欠なのに、既存の金融機関は個人の目線から遠いところにあるのではないか――。“金庫”として利用されるのではなく、お金と付き合うための道具を提供することはできないのか――。個人のための“道具としての銀行”を目指し、ソニー銀行は2001年4月に設立された。

 店舗を持たず、ネット上の取引を中心に据えた本格的ネットバンクとしてはもちろん、文字通り“ソニーの銀行”として世間の注目を集めた。ソニー銀行の石井茂社長は「ソニーというブランドのおかげで、私たちがどこの誰なのかを、ゼロから説明する必要がなかったことは、非常に助かった」と当時を振り返る。

 また銀行は立ち上げや黒字化に時間がかかるが、業績を長い目で見てもらえたことが現在につながっているという。利益ばかりを追うのではなく「“ソニーらしい銀行”を作るという愚直さを、株主が許してくれた」ことが、ソニー銀行の成長を支えてくれたというのだ。

顧客数10万人突破で“手ごたえ”

 しかしソニー銀行は開業当初、立て続けにトラブルに見舞われている。2001年9月、外貨預金の受け付けを開始した直後に米国で同時多発テロ事件が発生。その2週間ほど後には、石井氏が今も「最も厳しかった事態」と振り返るシステム障害が起きている。1台のハードウェアエラーをきっかけに、ソニー銀行のシステムが約13時間にわたって全面的にダウン。連鎖的に複数のシステムにエラーメッセージが出たため原因究明が遅れ、そのために長時間のシステムダウンを招くことになった。

 そして10月には、不正会計疑惑が報じられた米国企業エンロンの株価が急落し、金融市場が世界的に不安定になる。立ち上げ直後のソニー銀行は、まだ骨格がしっかりしていない時期だったにも関わらず、次から次へと難題が降りかかったのだ。

 しかし、開業当初にさまざまなトラブルの洗礼を受けたことは、ソニー銀行にとって良い教訓となった。システムの全面ダウンという事態が二度と起こらぬよう、危機管理を強化することで、以来一度もシステムトラブルを出していない。また、世界レベルの政治的事件による金融市場の混乱を乗り越えたことも、「自信へとつながった」と言う。

 その後、ソニー銀行は順調に業績を伸ばし、2002年には顧客数10万人を超え、そして2007年には50万人を突破した。「3年前に黒字が見えてきた時にも1つの区切りを感じたが、ターニングポイントとなったのは顧客数10万人を超えた時だ。『個人のための銀行』というコンセプトで営業を展開してきたが、一定の顧客数に達したことで“手ごたえ”を感じた」と話す。

市場金利を反映させることは“フェア”である

 ソニー銀行は2007年12月に、日経金融機関ランキング(日経新聞社による調査)で顧客満足度第1位に輝いた(2位には新生銀行、セブン銀行、大垣共立銀行、東京スター銀行)。顧客満足度1位となったソニー銀行に対しては、ネットバンキングの利便性や手数料の安さなどが高い評価となっている。

 また新規参入の銀行では、初めて預金残高1兆円を突破した。預金残高1兆円というのは地方銀行の中位行並みで、開業から7年弱の速さで到達した。ソニー銀行の預金金利は2008年4月7日時点で、円定期預金の金利は10万円以上100万円未満の場合、1年もので年0.776%など、全国平均と比べ高い(スーパー定期300万円未満、1年もので平均年0.358%)。これは店舗を持たないネット銀行の利点を生かし、大幅にコストを削減することで金利を高めに設定している。

 また市場金利の変化をいち早く反映するため、毎週月曜日に預金と住宅ローン金利を見直しているのも特徴だ。市場金利が上昇することによって、まず住宅ローンの金利を上げ、その後預金金利を上げる金融機関があったり、他の金融機関の金利を意識しながら設定するところも多い。「金融界は何かと“横並び意識”が強い。しかし市場金利を反映させることは、顧客にとって“フェア”であると考えている」。企業理念にも「フェアである」ことを掲げており、顧客から不備な点などの指摘があれば、随時改善に取り組んでいる。

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