中国はすでに「世界の工場」ではなくなりつつある保田隆明の時事日想

» 2008年03月27日 13時24分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

著者プロフィール:保田隆明

やわらか系エコノミスト。外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」「投資銀行時代、ニッポン企業の何が変わったのか?」「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「なぜ株式投資はもうからないのか」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


 番組のロケで、北京を訪問中だ。13年ぶりに北京に来たのだが、街が完全な別都市に変貌していることにとても驚いている。

10年で完全に別都市に――自転車から自動車へ

 前回初めて北京を訪れた時は、1週間ほどのんびりと滞在し、街中あちこちを見て歩いた。いくら13年という長い月日が流れたとは言え、2度目の訪問地ならば、「この道路には見覚えある」「あ、このビルも」などと、以前の記憶がフラッシュバックするものではないだろうか。しかし今回は、そういう感覚が全然起こらないのだ。

 日本でも13年前には、六本木ヒルズや、ミッドタウンはなかったし、汐留の高層ビル群は存在しなかったわけで、中国でなくともそれだけの月日が経てば当然街は変わるとは思う。それでも、記憶にフラッシュバックが起こらないのだから、それほど激変した、ということなのだろう。

 中国と言えば自転車が代名詞という人も多いはずだ。13年前は「おお〜、これが噂の自転車か!」と感激するぐらい、本当に街中に自転車があふれていた。朝夕のラッシュ時間帯は自転車が道幅いっぱいに広がって走っており、自転車に轢かれる交通事故を恐れたぐらいである。

 それが今の北京では、自転車が激減し、代わりに大量の自動車が大阪人も真っ青な運転マナーで走りまわっている。道路も、きれいに舗装された広い道路が縦にも横にもまっすぐに延びている。

 タクシーも増えた。13年前はタクシーは高級な存在で、台数はもっと少なく、自転車タイプの輪タクをよく見かけた。それが今や、市民の足としても使いやすい値ごろ感(初乗りは2元:約30円)で、日本と同じようにタクシーが余っているのだ。

「中国伝統のトイレ」はもう昔話

 13年前、中国のトイレといえば、街中にある大便用のものでもドアがなく、地面に穴ぼこが空いているだけというものが多かった。一緒にいた母親と妹は、ホテル以外では絶対にトイレには行かなかった。私は男性なのでまだ大丈夫とはいえ、トイレに入った時に見知らぬ人が地面にしゃがんで大便の処理をしている場面に出くわすのはさすがに抵抗があった。

 そんな状況もあり、13年前に北京を訪問した際は、正直言って「まだまだこの国は遅れているな」なんて思ったものである。しかし、今回感じたのは「日本とほとんど遜色ない。むしろ日本が追い抜かされる日は遠くないな」という危機感に尽きる。残念なことに危機感を持ったところで、中国という国の高成長を止めることはできない。我々は、日本の経済成長率をいかに高めるかについて、もっと真剣に考える必要があると思う。

世界の工場から巨大消費市場へ

 中国は今まで、その安価な労働力により世界の工場としての役割を果たしてきた。しかし最近では人件費の高騰により、中国ではなくベトナムで労働集約的産業を行う外資系企業も出てきている。むしろ中国では今、これまで無尽蔵だと思われていた農村地域から都市部へ流入する労働力供給が今後は期待できなくなり、「中国は労働者不足に陥っている」という経済学者も現れ始めている。

 労働力不足が起これば賃金の上昇が発生し、物価も上がっていく。今回北京を訪れて思ったのは、中国はまさに世界の工場から、世界の消費市場へ変化するちょうど転換点を迎えつつあるのではないかということである。それぐらい、街中で見る国民の生活水準は向上している。

 経済の発展ぶりや消費の盛り上がりは、データとしては把握できるが、日本にいると「中国は安価な労働力による工場としての役割を果たす国」とまだまだ思い続けてしまう人が多いと思う。しかし、特にB2C事業を行う日本企業にとっては、中国の消費力の変化をとらえ、タイムリーに戦略を打つことが今後は最重要になると思われる。

 食事や買い物をすると、まだ「安い」と思うことが多いが、この状況もそう長くは続くまい。中国はインフレ抑制に気を配っているが、それでももう何年か後に再び北京を訪問することがあれば、その時にはおそらく物価の上昇に驚くことになるのではないだろうか。

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