Yahoo! の時間稼ぎはうまくいくか 保田隆明の時事日想

» 2008年02月14日 10時12分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

 Yahoo! の取締役会は、MicrosoftによるYahoo! への買収提案を、買収金額が低すぎるという理由で拒否した(参照記事)

 M&Aでは、買い手が売り手に対して、株価に比べて約30%程度の買収プレミアムを支払うことが一般的である。それが、今回の買収提案では、MicrosoftはYahoo! の株価に比べて60%以上のプレミアムを支払うという「破格」のものだっただけに、受諾の可能性も高いのではないかと見ていたが、第1幕はYahoo! の拒否ということになった。

拒否の目的は高値引出しと時間稼ぎ

 ただ、Yahoo! が拒否をするというのは、それはそれで想定内のことでもあった。なぜなら、買収を仕掛けられた企業が、ベターな買収提案を引き出すために、とりあえずは当初の買収提案を拒否するというのはよくある話だからである。ここで日本の場合と違うのは、日本では最後まで買収提案を拒否し続けてなんとか単独での生き残りを図ろうとするが、米国の場合は、拒否を続けて金額を吊り上げるだけ吊り上げ、最終的には売却に応じるというケースが多いことである。

 米国では多くの企業が導入しており、日本でも近年広まってきた敵対的買収防衛策にしても、日本では“なんとか自主独立を守りきるため”という意味合いが強い。一方、米国では“交渉をする時間を稼いでより良い条件を引き出すため”という意味合いが強い。

 今回のYahoo! の買収提案拒否は、Microsoftからより高い金額を引き出すためという目的に加え、ホワイトナイトが登場するまでの時間稼ぎという狙いがある。ただ、ホワイトナイトが出現する可能性は、現実的には高くない。GoogleがYahoo! をレスキューするといった話も出ているが、Googleは独禁法に抵触するので、ホワイトナイトとなってYahoo! を買収することはできない。Googleにできるのは、Microsoftによる買収を側面から邪魔するぐらいだろう。他にAOLやeBayなどの名前も挙がっているが、Microsoftが提示しているほどの条件を出せるか、そしてMicrosoft以上にシナジーを創出しうるかという点で疑問符が付く。

株価は低調基調

 さて、Yahoo! のここ1年間の株価の動きを見てみると、最初の半年ほどは株価は30ドル前後で推移していたものが、後半には25ドル前後となり、2008年の年明け以降は20ドル以下に下落していた。Yahoo! がMicrosoftの買収提案を拒否したのは、Microsoftの提案がYahoo! の株価が下がったところを狙い撃ちしたものだったからと言う人もいるようだ。確かにいくら買収プレミアムをつけようが、買収提案価格の31ドルという水準は、去年の今頃にYahoo!についていた株価である。ここ1年ほどの間MicrosoftとYahoo! の間でM&Aの協議が断続的に行われていたことを考えると、Yahoo! から見れば60%以上のプレミアムも色あせてしまうのであろう。Yahoo! の主張は理解できなくない。

 しかし、過去の株価はあくまでも過去のもの。株価は今後の収益性、成長性を見越してつくものである。20ドルを切ってしまっていたYahoo! の株価は、市場が経営陣に対して単独での生き残りという選択肢にノーを突きつけていたからと見ることもできる。減益を続けるYahoo! の企業としての状態は明らかに去年の今頃に比べると悪化しており、過去を引き合いに出して買収金額の議論をしてもナンセンスである。それは、「昔は若くて美人だった」と回想するのと同じことだ。

有効な代替案はない

 もし今回、現経営陣がまったく買収提案を受け入れず、単独での生き残り策を模索すれば、Yahoo! の株価は再び買収提案前ぐらいまで落ち込むことになる。日本のように株主が株主価値に無頓着な市場であれば話は別だが、米国市場では株主からは大ブーイングを浴びることとなり、結局Yahoo! の経営陣は刷新されることになる。現状では、さらなる高値を引き出してMicrosoftに売却するという選択肢以外の有効な戦術は、Yahoo! 側には見えていない。

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