利子のない銀行――「イスラム金融」とは? 山口揚平の時事日想

» 2007年12月18日 11時03分 公開
[山口揚平,Business Media 誠]

著者プロフィール:山口揚平

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。


 最近、話題になることが増えている「イスラム金融」。イスラム金融とはどのようなものなのか? 今週の本コラムでは、イスラム金融について簡単に紹介したい。

 イスラム金融とは、「イスラムの法解釈にかなった金融」を指す。イスラム法のことをシャリーアといい、シャリーアでは宗教的なことだけでなく、世俗的なことも定めている。シャリーアでは、例えばアルコール、賭博・武器などの事業に資金を融通することは禁じられている。

 だがイスラム金融のもっとも顕著な特徴は、「金利」という概念が許されないことであろう。これは、イスラムの経典(コーラン)で、利息(リバー、「増加」を意味するアラビア語)が禁じられていることに由来している。

なぜ今、イスラム金融が注目を集めるのか

 イスラム金融の規模は、2005年時点で約7000億〜1兆ドルになっているといわれ、今でも増加を続けている。中東地域はもちろん、マレーシアやタイといったムスリム※人口の多いアジア地域でも、イスラム金融は拡大している。このような規模拡大の背景としては、いわゆる原油高によるオイルマネーの影響力拡大や、それに伴うドバイを中心とした中東地域経済の加速度的成長、加えてイスラム回帰の潮流の中でムスリム人口自体が増加していることなどが挙げられる。

ムスリム……イスラムを信じる人のこと

 だがいまイスラム金融が注目を集める理由はそれだけではないと思う。我々、“西側”の金融資本主義システムがはらむ欠陥に対する比較として取り上げられているのではないか。

イスラム金融のしくみとは?

 上述のように、コーランではリバーが禁止されているため、“西側”の銀行の金融商品ではシャリーアに沿っていないことになる。そこで、ムスリムを対象とする利子なしの銀行として、イスラム金融が登場した。イスラム金融では、資金対資金の取引による利子で儲けることは許されない。そこで、この商品取引から生じる利益や、事業・投資を行った結果の配当といった形態が採られることが多い。

 例えば、「ムラーバハ」という取引仲介方法がある。これは、銀行が商品の買い手の代理として、先に売り手から商品を購入し、買い手に対し再販売する形態である。売り手から銀行への販売価格や、銀行から売り手への販売価格はあらかじめ定められているため、銀行にとってはその差額が金利相当の収入となる。

 また「イスティスナ」というプロジェクトファイナンスの方法がある。これは、工業製品の調達や建設などのプロジェクトにおいて、銀行が発注者に代わって業者に先払いする金融取引である。業者はその資金をもとに事業を実施し、銀行を通して顧客に納入する。銀行は顧客より資金の支払いを受け、その差額を利益とする。ムラーバハとの違いは、金融取引の時点では、商品が実体として存在しない点だ。イスラム金融は実体のない取引を嫌うが、イスティスナのスキームでは、詳細な指図があり、対象資産が特定されているため、実体のある取引とみなされ、適格と認められる。

 そのほか、出資者の資金をまとめて、事業家が運用をし、それを配当として出資者に還流する「ムダーラバ」などの取引形態がある。いずれの仕組みも金融というよりは、日本では、総合商社が行っている役割に近い。

我々は何を取り入れることができるのか?

 いずれにせよイスラム金融では、実体のない資金対資金の純粋金融取引は許されない。どのスキームもいわゆる金融の枠組みを超えて、銀行が事業なり取引に直接コミットし、付加価値をつけることで利益を得ることが許されるのである。

 翻って、私たち西側の資本主義世界では金融経済と実体経済との距離の乖離(かいり)が進んでいる。西側ではしばしばバブルが大きくなり、そしてはじけているが、これは金融経済の中で資金が獰猛に動き、実体経済へ悪影響を与えた姿の1つだ。

 私は、現在の金融経済の本質的課題は、金融取引が現物や事業という“素”を忘れ、貨幣だけが“軽薄”に流通する仕組みにあると思う。過度なレバレッジによる資金膨張と、永遠に繰り返される外部化(セキュリタライゼーション)によって、私たちの金融経済は実態経済を置き去りにしてしてしまった。

 その結果、行き場を失った資金が荒れ狂いコントロールを失っている(あるいは意図的に誰かにコントロールされている?)のが今の資本主義の姿といえないだろうか。

 誰の言葉だったか、「共産主義は早死にするだろう。資本主義は爆竹のようにはじけて終わるだろう」という予言があった。

 私たちの世代は、ポスト資本主義社会に向けたグランドデザインを行うべき使命を持っているのかもしれない。取引の“実体性”を重視するイスラム金融から、資本主義の中に生きる私たちが学ぶものは大きいのではないだろうか。

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