シティ、日興コーディアルに見る三角合併の背景と中身 保田隆明の時事日想

» 2007年10月04日 03時49分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

著者プロフィール:《保田隆明》

やわらか系エコノミスト。外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「投資事業組合とは何か」「なぜ株式投資はもうからないのか」「株式市場とM&A」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


 シティグループが68%の株式を保有する日興コーディアル証券を100%子会社化すると発表した(参照リンク、PDF)。手法としては三角合併を用いることとなり、本年5月の解禁後、初の三角合併適用案件となる。

国内初の三角合併適用案件の登場

 解禁前、三角合併は外資系企業による日本企業への敵対的買収に用いられるという脅威論があった一方、制度の設計上は株主総会で3分の2以上の賛成が必要なことから、そもそも友好的買収にしか用いることはできないのではないか、という意見もあった。

 どちらの見解が正しいかに関しては、解禁後にどういう活用がされるかで検証されていくことになるわけだが、まずは第1号案件が友好的買収ということで、三角合併脅威論が少しは和らぐかもしれない。

3分の2以上と未満では大きな差

 シティは既に3分の2以上の日興コーディアル株式を保有しているので、今回の三角合併が株主総会で承認されることは間違いない。シティはもともとTOB(株式公開買付)によって日興コーディアルを買収したが、当時は外資系投資ファンドの横槍が入り、日興コーディアルはシティの提示したTOB価格が安すぎると主張してTOBに応じない姿勢を見せていた。シティが果たしてどの程度の株式を取得できるかが注目を集めた案件であったが、結果は68%の株式の取得ができ、無事に子会社化に成功した。

 もし当初取得できた株式の割合が3分の2未満であった場合は、今回の三角合併を株主総会で承認させるには、シティ以外の日興コーディアルの株主の同意をも取り付ける必要があったことになる。そう考えると、たった数パーセントの差であるが、買収当初に68%の株式を取得できていたことはシティにとっては大いなるプラスとなった。

なぜ現金買収ではなく、三角合併?

 ただ、株主総会で自動的に承認を得ることが可能だとしても、三角合併初体験となる株主からは不安やノイズが発生する可能性は高い。三角合併を用いることなく、現金による買収で100%子会社を目指すことにすれば株主からの不安やノイズが発生することはないだろう。にもかかわらずあえて三角合併を選択するにはそれなりの理由がある。一つには現金のみでは100%子会社化を行うことは難しいであろうこと、そしてもう一つは三角合併を行えば、日興コーディアルの少数株主を強制的に追い出して100%子会社化を行うことが可能なことである。

 もし現金のみによる100%子会社化を目指す場合は、前回と同じ買収価格(1株1700円)以外の価格を提示することは難しい。もし、今回の買収価格が前回の買収価格よりも高いと、前回のTOBに応募した株主からは大ブーイングを浴びることになってしまう。一方、前回のTOBに応じなかった株主の多くは、TOB価格が低すぎたと思っていたわけであり、それら株主に対して前回よりも低い買収価格を提示しても売ってはくれないだろうからだ。

 従ってシティ側には、現金のみでの100%子会社化は、したくてもできないという事情があるということになる。

 一方、株主総会で三角合併を承認することができれば、その後は着々と事務的なプロセスを経てほぼ強制的に日興コーディアル株式がシティ株式と交換されることになる。シティ株式との交換が嫌な株主は、シティに現金で買い取ってもらうこともできるが、そのときの価格はシティの提示する株価になる。これはおそらく前回のTOB価格である1700円になるだろう。その価格も不満な株主は、今度は裁判所に持っていくこともできるが、そこで自らの納得するような結果を得られる可能性は低い。つまり、シティ側は三角合併を株主総会で承認さえしてしまえば、シティ株との株式交換、または1700円による現金買い取りのどちらかの方法によって、確実に100%株式取得が可能なのである。

三角合併で「少数株主 VS. 買収企業」の図式

 三角合併が解禁されていなければ、シティによる日興コーディアルの100%子会社化はもっと面倒であったはずだ。その意味では、まさにシティにとって三角合併解禁は渡りに船のタイミングとなった。一方、日興コーディアルの少数株主の側から見てみると、自らが強制的に追い出されることを意味し、シティと日興コーディアルの間では友好的な買収ではあるが、日興コーディアルの少数株主とシティの間では必ずしも友好的とはならないのが、今回の三角合併の構図である。

 この少数株主が割を食う可能性がある、という点が、三角合併では見逃せないのである。ただ、これは三角合併に限った話ではなく、国内企業同士の株式交換案件でも少数株主は強制的に排除される。少数株主受難のようにも思われるが、買収側企業がある程度のプレミアムを提供する限りは、少数株主はそれを甘んじて受けるしかない。

 ただ、もしも、カネボウのケースのように、少数株主を排除する段階になって、少数株主に支払う対価が、当初買収価格よりも減額する場合は大問題となり、その場合は少数株主の権利を大いに争う必要がある。しかし、今回のケースでは市場株価よりも高い値段での株式交換、もしくは現金による取得となるため、争う余地はない。従って、国内初の三角合併は無事遂行されることになるだろう。

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