レクサスカードに注力し、QUICPayを重視する理由――トヨタファイナンス(後編)神尾寿の時事日想・特別編:

» 2007年08月08日 23時25分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 市場の飽和感、貸金業法の改正など、変革期にあるクレジットカード業界。その中で、新興のイシュア(クレジットカード発行会社)ながら、成長率や稼働率の高さで注目されているのが、トヨタグループでクレジットカード事業を担うトヨタファイナンスだ(7月11日の記事参照)

 トヨタファイナンスは2001年に、「TS3 CARD (ティーエスキュービック)」を発行してクレジットカード市場に参入した。またトヨタの高級車「レクサス」のオーナーに「レクサスカード」を発行しているのも同社だ。現在同社は会員数13位ながら(2006年3月時点)、ETCカード発行数1位、新規入会1年以内のカード稼働率7割と“使われるカード”を実現。さらにQUICPayの発行・加盟店開拓でも、強いプレゼンスを発揮している。

 今日の時事日想は特別編として、トヨタファイナンス常務取締役カード本部長、塘信昌(つつみのぶあき)氏のインタビュー後編をお届けする。

トヨタファイナンス常務取締役カード本部長の塘信昌氏

“カローラの発想”をクレジットカードに生かす――トヨタファイナンス(前編)

ポイント有効期間は5年、トヨタ車購入時は1.5倍でポイント還元

――TS3はトヨタ車の販売店(ディーラー)が顧客獲得の重要な窓口になっていますが、TS3はトヨタの自動車ビジネスの中で、どのような位置付けになっているのでしょうか。

塘:自動車販売との連携では、TS3のポイントプログラムが重要な位置付けを担っています。TS3のポイント有効期間は他のクレジットカードよりも長い5年で設定しており、しかもトヨタ車購入時には(ポイントを)1.5倍で還元します。自動車の買い換えサイクルに合わせて貯めやすく、しかも使いやすいわけですね。

――TS3のポイントプログラムがトヨタ車販売を後押しする、という効果はすでに現れているのでしょうか。

塘:TS3のサービスは2001年に開始しているので、(初期加入者は)昨年から5年目のポイント失効時期にさしかかっています。そこで積極的に行っているのが、失効前にポイント利用を促す「ポイントDM」です。これをトヨタ販売店ごとに行ったところ、非常に反応がいい。ポイント付与と還元のサイクルがうまく回り始めました。

クレジットカードのポイントを、クルマの販促ツールに変える

――トヨタ車ディーラーで会員獲得、決済利用の促進によるポイント付与、そして再びトヨタ車ディーラーでクルマを買ってもらう。国内の自動車市場が低迷し、クルマそのものの訴求力が落ちる中で、このポイントプログラムによる循環モデルはよくできていますね。

塘: そのサイクルがうまく回るには、ポイント還元率もそうですが、ポイントもたくさん貯められるようにしなければならない。ですから我々は、メーンカード化を進めたり、独自に加盟店開拓やQUICPayを推進し、「ポイントを貯めやすくする」取り組みをしています。

 例えば、TS3の利用加盟店で見ても、事業開始当初はトヨタ車ディーラーでの決済が多かったのですが、今では(トヨタの)販売店が3割、それ以外が7割という状況です。

――つまり、トヨタの販売店以外で付与したポイントが、トヨタ車購入に戻ってきているわけですね。

塘: そうです。トヨタの販売店から見れば、(決済手数料の中から)付与したポイントが3倍になって戻ってくる感じです。

――なるほど。TS3のポイントの蓄積が多いほど、トヨタ車購入で還元したときの“割引額”が大きくなりますから、他の自動車メーカーとの販売競争上も優位になるわけですね。

男性中心の顧客層を、おサイフケータイを利用して広げる

――現在、TS3はカーライフという切り口で顧客を獲得していて、それが稼働率の高さに貢献しているというシナリオは十分に納得できます。しかしクルマを軸にすると、他の銀行・信販系のクレジットカードに比べ、顧客の年齢・性別などが偏るということはないのでしょうか。

塘: 我々の顧客獲得窓口で大きいのはトヨタ車ディーラーですが、トヨタは国内市場の自動車販売において約45%のシェアを持っています。日本のクルマの約半分がトヨタなわけですね。そう考えると、(トヨタという)獲得顧客チャネルによって、会員層の偏りが生じるとは考えにくい。

 ただし性別で見ると、自動車購入では名義上は男性が多い。実際に購入決定権を持っているのは奥様などでしょうが、購入名義は男性になる傾向があります。そのためTS3の主契約者も男性が多く、その点は流通系クレジットカードとは異なります。我々としては、家族カードの発行を増やしていきたいと考えています。

――TS3はまずクルマを軸に会員獲得をしてきたわけですが、今後、どのように顧客獲得チャネルを拡大していくのでしょうか。

塘: 我々はいまQUICPayに力を入れていますが、この小口決済から会員獲得につなげるビジョンを持っています。最初は利用限度額を低めに設定しますが、モバイル(おサイフケータイ)だけで気軽に使い始められるようなものです。

――おサイフケータイだけで利用できるというと、それはドコモの「DCMX mini」(2006年4月の記事参照)のようなイメージでしょうか。

塘:そうですね。我々は「親なしカード」と呼んでいますが、(通常の)プラスティックカードを発行せずに、おサイフケータイ向けのサービスだけでQUICPayを利用でき、利用限度額をコントロールする形を考えています。

 DCMX miniとの違いで言いますと、あちらは携帯電話料金との合算であり、スキームとしてはドコモの携帯電話課金の延長線になっています。しかし我々の考えているものは、決済のツールはおサイフケータイのみになりますが、中身は通常のクレジットカード契約という形ですね。(携帯電話キャリアと)アライアンスを組んで、広げていきたいと考えています。

――なるほど。入り口として“ケータイ”を使うことで、これまでのクルマ軸ではアプローチが難しかった新たな顧客層も狙えそうですね。

プレミアムカードの市場をどう見るか

――TS3のコンセプトは“カローラ”のように堅実な生活総合カードですが、一方で、クレジットカード業界では富裕層の獲得と囲い込みの競争が起きています。プレミアムカードやステータスカードと呼ばれる領域ですね。トヨタの自動車ビジネスで見ても、プレミアムブランドの「レクサス」が誕生するなど、富裕層向けの高級志向が生まれています。トヨタファイナンスでは、このプレミアムセグメントの市場について、どのようなスタンスを取っていくのでしょうか。

塘: クレジットカード業界の流れとしては、銀行系カードを中心とした決済型のサービスと、アメックスに代表される年会費型のサービスがあります。その中でクラブ組織型に会員属性を把握し、お客様対応力も強化、さらにマーケティングをしっかりしていくことも重要になります。

 トヨタファイナンスではゴールドカードを発行しており、ゴールド層がありますが、あえて「レクサスカード」という形でプラチナカードを発行しました。すでにレクサスカードは約3万枚発行しています。

――レクサスカードでユニークなのは、“レクサス車オーナー”を加入条件にして、セグメントを区切っているところですね。他のプラチナカードは、職業や年収、ゴールド会員時代の利用実績で、富裕層かどうかの判断をしていますが、レクサスカードは「レクサス所有者かどうか」でライフスタイルの判定をしている。

塘: そういう意味ではクローズドユーザーなわけです(笑)。ただ、それだけにプレミアムサービスとしてコミュニケーションが取りやすいという面があります。

 例えばコンシェルジュサービスでは、独自に高級店ルートを作り、レクサスカードの会員を送客しています。1年ほど前から予約しなければならない高級旅館や料亭が、レクサスカードのコンシェルジュを通すと数カ月で取れるといったサービスをしています。

――プレミアムカードの分野では、ダイナースやアメリカンエキスプレス、JCBなど古参のカード会社が有名ですが、トヨタファイナンスとしては、この分野でも今後競争していくのでしょうか。

塘: いや、競争にならないと思いますよ。我々にとってレクサスカードは、かつての「いつかはクラウン」のような象徴的なカードサービスなのです。ですから、他社のように富裕層なら誰でも獲得するわけではなく、“レクサスオーナー”という形でクローズドにしている。アメックスやダイナースと直接競合する考えはありません。

――レクサスカードの基本は「レクサスがある生活」という区切りであって、富裕層すべてを狙うものではないわけですね。

塘: ええ。ただ、1つ悩みがありまして、レクサスカードはレクサス車の所有が加入条件になっているので、クラウン・マジェスタにお乗りの方に提供できない。実際のところ、クラウンやマジェスタは、社会的ステータスの高い方が、(あえてレクサスではなく)積極的に選んでいらっしゃるケースも多いのです。

――確かに地方ですと、地元の名士や企業経営者はクラウンを選ばれるケースが多いですね。TS3プロパーのラインアップに、プラチナクラスがあってもいいのかもしれません。

塘: まさに今、それを検討しているところです。

QUICPayは「5年のスパンでがんばる」

――最近のトヨタファイナンスの動きで、特に目立っているのが、名古屋で行っているQUICPay加盟店の拡大です(7月14日の記事参照)。この動きは、今後、全国に広がっていくのでしょうか?

名古屋駅構内のドラッグストアに置かれていたQUICPay用リーダー/ライター

塘: 我々はQUICPayについて、クレジットカード事業のポートフォリオを変えていく上でも重要なものと見ています。その中で自社加盟店を増やすことは、手数料収入を増やす上で重要な取り組みです。

 しかし、加盟店に多くのお客様を誘導できないと、後発として自社加盟店を増やすのは難しい。またQUICPayのような新商品は、使える店舗が少なければお客様にもメリットを感じていただけない。名古屋では「トヨタの職域」という形でQUICPayを軌道に乗せていますが、この分野全体で見れば、5年くらい根気強くがんばる必要があるでしょう。

――新しい技術の普及には時間がかかる、と。

塘:Suicaなどもブレイクスルーを迎えるのに、やはり5年近くかかっていますよね。QUICPay(などのFeliCaクレジット)は後から登場したものですので、しばらくはスキームホルダーのジェーシービーと一緒に、歯を食いしばって普及と利用促進をしていかなければならないと考えています。

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