新株を発行する企業が減っている理由――“資本コスト”って何?保田隆明の時事日想

» 2007年06月28日 00時00分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

著者プロフィール:保田隆明

やわらか系エコノミスト。外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「投資事業組合とは何か」「なぜ株式投資はもうからないのか」「株式市場とM&A」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv。ブログ:http://wkwk.tv/chou


 6月26日の日本経済新聞夕刊に、企業の資金調達について、新株および転換社債の発行による資金調達(エクイティファイナンス)の記事があった。それによると2007年上期は、前期比70%減になりそうだという。

 理由としては以下の通りだ。企業は新株発行により浮動株が増えると、市場で株を買い集めやすくなり敵対的買収のリスクが高まる。金利上昇を見越して企業は、金利が安いうちに借入金での資金調達をする動きが出ている。さらに海外企業に比べて低いROEを高めるためにも、株式ではなく借入金で資金調達を行う企業が増えているのだ。

資本コストとは、企業の資金調達コスト

 さらに理由を加えるとすれば、企業の“資本コスト”を考えると、エクイティファイナンスよりも借入金の方がいいということがある。

 企業の財務戦略において、この資本コストは非常に重要な要素である。しかし日本企業では、投資家対応のIRの席や財務戦略上でも、資本コストという言葉を聞く機会はまだ少ない。資本コストとは、企業の資金調達コストを意味する。

安いコストで資金調達をすれば効率的に稼ぐことができる

 企業は負債(借入金)、もしくは株式によってお金を調達する。そのお金で事業に必要な工場の建設、備品の購入など投資をし、収益を上げる。同じ分量の資産で同じだけの収益を上げる2社が存在した場合、より安いコストで資金調達ができる企業の方が効率的に稼ぐことになる。

 日本の金利は非常に低く、企業が借入金をするときの利息は2%程度で済む。一方、株式でお金を調達するコストは5〜7%程度である。借入金の方が調達コストが安く済むので、企業の財務戦略上、理論的には借入金での資金調達を多くした方が良い。

三重過剰苦時代のトラウマがあるのか

 ただ、あまりに借入金を多くして倒産しそうになっては元も子もないので、借入金割合を「適度に」高めるのが重要となる。企業は平成不況期に三重過剰(設備過剰、雇用過剰、借金過剰)に苦しんだので、ほぼ本能的に借入金を減らしたいという欲求を抱える経営者もいると思われる。しかし、景気と企業業績が回復してきたからこそ、今は借入金を有効活用する局面といえる。

 企業財務を考えるとき、いかに収益を上げるかという点に関しては頻繁に議論され、企業でも重要課題として認識されている。ただ、この資金調達コストに対する意識は、まだ海外企業に比べると高くない。せっかく日本という世界的にも超低金利の国で事業を行っているならば、その恩恵を十分に生かす発想は重要なはずである。

 昨年のエクイティファイナンスが旺盛だった理由としては、積極的な設備投資を支えるためという側面があったと思われる。いくら綿密に事前シミュレーションをしてみても、多額の設備投資が収益に結びつくかどうかは難しい。実際にやってみないと分からないという比較的ハイリスクな側面がある。リスクを取りたがる投資家が投資する株式で、資金調達をするというのは筋が通っている。特に昨年は、やっと企業業績が回復してきたばかりであり、再び借入金を増加させることに対しては抵抗もあったと思われる。

海外企業では経営陣が資本コストに言及することもよくある

 しかし、今や企業業績は安定成長期に差し掛かっていると考えられる。次は資本コストも含めて資金調達手法を考えていく、そんな局面に差し掛かっているのではないか。投資家IRで企業が資本コストにまで言及するようになれば、今や日本の株式市場の投資家の半分以上を占める外国人投資家にも喜ばれるだろう。

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