消費者金融の被害者を増やすな――日本クレジットカウンセリング協会

» 2007年05月21日 20時59分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

 消費者金融の利用者が約1400万人を超え、そのうち多重債務者(複数の消費者金融から借りている人)は200万人を突破したと言われている。多重債務問題を解決するために2006年12月に成立したのが、2010年までに段階的に導入される「新貸金業法」だ。これにより上限金利の引き下げ(年利20%まで)と、総量規制(年収の3分の1まで)が施行される。貸し手への規制を通じ、新たに多重債務者が生まれるのを抑制しようという狙いだ。

 しかし多額の債務を抱える人に対しては、消費者金融業界も審査が厳しくなり、結果的に融資が受けられないという事態が懸念される。お金が借りにくくなれば、ヤミ金が横行することも予想され、「借り手対策」が急務とも言われている。そこで多重債務の状態に陥っている債務者に対し、生活再建のための相談や債務整理の相談に応じる窓口整備が求められているのだ。

 多重債務者の発生を未然に防ぐため、クレジット業界などが協力して、債務者の相談業務に取り組んでいるのが「日本クレジットカウンセリング協会」(JCCA)だ。貸金業法の改正によって、“貸し渋り”が増え、借り手がヤミ金に流れるかもしれない。困窮する借り手を救うことができるのか――JCCAの山岸親雄専務理事に話を聞いた。

JCCAの山岸親雄専務理事

 ――JCCAでは、多重債務者からの債務整理や家計管理などの相談に応じていますが、どのようなカウンセリングをしているのか教えてください。

 「まず電話による相談を受け、協会のカウンセラーが多重債務の悩みなどに応じる。消費者信用の利用や弁済意思など、一定の条件を満たせば、1〜2週間後にカウンセリングを始める。そこで弁護士とカウンセラーが面談し、相談者に最もふさわしい解決方法を助言していく。

 相談や助言だけで足りる場合はカウンセリングで終了となるし、自己破産や個人再生が適当なケースでは弁護士会を紹介する。カウンセリングで最も多いタイプは、自己破産をする状況ではないが、債務整理が可能な人たちだ。必要な資料をもとに、返済を見直す『弁済計画』を策定する。そして債権者との交渉に入り、弁済計画の締結・履行という流れで終了する。カウンセリングが終了するまで、相談者は4〜5回の面談をしなければならない。

 協会のカウンセリングが無料であるのも特徴だ。電話による相談から任意整理が終了するまで、協会が無料で行う」

「過払請求」の相談が増えている

 ――カウンセリングの件数や相談者の特徴はありますか。

 「2006年度の電話による相談は、対前年度比36%増の1万2417件となった。こうした背景として、最高裁が2006年1月の判決で、グレーゾーン金利が認められる条件を大幅に制限するという判断があった。また貸金業法の改正により、多重債務者が増えるのではないか。そういった対策として、各方面で協会が紹介されたことも大きい。

 自己破産の件数は2003年度の約24万人をピークに減少を続けており、2006年度は約16万人だった。さらに個人再生の申立ても3年連続で約2万6000件で、高止まりを続けている。こうした数字と比べて見ても、相談件数との連動制は少ないと思われる。

 2006年度にカウンセリングを受けた相談者(東京センター)は901人だった。性別の内訳は、男性609人、女性292人で、前年度に比べ女性の30歳以下が減少し、40歳以上の増加が目立った。このため30歳以下の相談者(男女計)の割合が、初めて全相談者の6割を切った。

 1人当たりの債務件数と債務額は、住宅ローンがなく、カウンセリングを受けた814人は、件数が6.9件、金額は302万円だった。過去5年を振り返ると、件数と金額は減少しているものの、1件当りの金額が増加している。

 多重債務の原因として、男性は飲食やギャンブルが多く、女性は収入の減少やぜいたく品が目立った。

 『ヤミ金から借りている』という相談には、『返済するのを止めなさい』と助言している。もし、ヤミ金から脅されたら、『警察に相談してください』と答えるように伝えている。債務者だけで対応ができない場合には、弁護士会を紹介するケースもあります。ただここ数年では、ヤミ金に関する相談件数は少なくなっている。

 最近の特徴では、グレーゾーン金利の『過払請求』の相談件数が増えている。昨年から相談数が増加傾向にあるが、まだまだ相談者の大半の人が『過払請求』のことを知らない。協会としては、相談があれば弁護士会を紹介するようにしている」

全国で拠点を11カ所に拡充

 ――相談窓口の整備が進んでいるようですが。

 「現状は東京、名古屋、福岡の3カ所しかないが、政府が推進している『多重債務問題改善プログラム』では、全国で11カ所を設置するように要請されている。これを受け今年度は、3カ所増やす予定だ。相談員は現在、60人ほどしかいないが、今後は弁護士会との連携を強化し、組織を拡大していく。

 協会が発足してからクレジット業界だけがスポンサーだったが、2002年から消費者金融と銀行が加わった。資金面での問題が解決したため、2003年に福岡、2004年に名古屋と拠点を拡充した。全国に窓口が広がれば相談件数が増えることが予想され、借り手対策に貢献できるのではないか」

 ――今後、多重債務者は増えていくでしょうか。

 「貸金業法が改正されるため、消費者金融業界が債務者を絞り込んでくるだろう。これがどのように影響するか予想がつかない。

 消費者金融業界の与信審査が厳しくなれば、自転車操業で借りている人にとっては、自己破産につながるかもしれないが、それを裏付けるデータがない。これまで安易に借りてきた人にとっては借り過ぎに歯止めがかかるかもしれないし、自力返済ができる人――病気で例えると“軽症”であれば、多重債務状態に陥るのを防げるかもしれない」

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