消費者金融を襲う3つの難題

» 2007年05月16日 13時28分 公開
[土肥義則Business Media 誠]
コスト削減によって有人店舗の統廃合が進む

 消費者金融業界が構造的な問題に苦しんでいる。利息制限法(年15〜20%)を上回るグレーゾーン金利(年29.2%まで)を支払わされたのは不当として、債務者から「返還請求」が相次いでいる。2006年1月の最高裁で、グレーゾーン金利を無効とする判決が下されたため、一気に訴訟が広がっているのだ。さらに弁護士らが救済活動をしている「全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会」の呼び掛けもあり、返還請求の歯止めがかからない。消費者金融の関係者の間では「今期がピークだろう」という一方、「まだまだ増え続けていて、先が読めない」との見方も出ている。この莫大な返還請求が経営の屋台骨を揺らし続け、視界不良に陥っているのだ。

 2007年3月期の決算では、大手4社(アイフル、アコム、武富士、プロミス)の赤字額が1兆7000億円を超えた。その原因は、返済請求の「利息返還費用」と、将来に備えた「引当金」が急増したためだ。4社とも2008年3月期の業績予想は、人員や店舗の削減などにより黒字を見込んでいる。しかし業界筋では「2期連続の赤字は絶対に避けなければならないが、現状では厳しい」と見る。

 返還請求のピークを過ぎる時期が不透明なうえ、新貸金業法が段階的に施行される。厳しい環境のなか、消費者金融業界の「再編・淘汰」が加速するのか。生き残りをかけた、最終局面に突入しようとしている。

事業縮小は必至

 2006年12月の貸金業規正法の改正により、2010年までにグレーゾーン金利が撤廃され、利息制限法が定める20%に1本化される。さらに総量規制が導入され、年収の3分の1を超える貸付が禁止される。この改正によって、消費者金融業界は事業の縮小を迫られているのだ。

 グレーゾーンの廃止は、利ざやの縮小を意味するため、消費者金融の収益が圧迫されるのは確実だ。利益を確保するためには、貸し倒れリスクを回避する必要がある。そのため「これまで以上に審査は厳しくなる。優良顧客を囲い込むため、各社はしのぎを削りあう戦いになるだろう」と関係者は話す。

 これまでは高収益体質だったため、多少の債権放棄、つまり貸し倒れを“見逃していた”側面がある。数年前までは「債権の焦げ付きについては、税金対策のような感覚でいた」と、大手の幹部は語る。その当時は、各社とも貸し付け合戦を繰り広げ、ボリュームを競い合っていたが、今後は方向転換を余儀なくされそうだ。

 また大手消費者金融の債務者は、年収300〜400万円の層が中心だという。総量規制によって大半の顧客は、100万円程度に貸し付けが制限される。そのため「“貸し渋り”に直面する多重債務者が増えていくだろう」(同)と指摘する。こうした背景から貸付残高は、半分ほどに減少するのではないか、という公算が高い。総量規制が施行されると、1〜2社から借りれば規制がかかるため、顧客から最初に選ばれる会社でなくてはならないのだ。

 貸金業法の改正で最も影響を受けるのは、中小の業者かもしれない。もともと調達コストが高かった中小にとって、利ざやの縮小は致命的だろう。生き残りは難しく「淘汰が進む」という見方が一般的だ。すでに外部から資金を得ている中小では、調達をストップしている所も出てきているという。

返還請求はもろ刃の剣

 相次いでいる返還請求だが、債務者にとっては、“もろ刃の剣”とも言えるだろう。ある大手の審査担当者は「返してもらわないと“損”という風潮だ。しかし1回でも請求をすれば、今後の取引に支障が出るだろう」とくぎを刺す。返還請求をした顧客に対しては、貸出審査を慎重にならざるを得ないようだ。「もう2度と消費者金融から借りない」という覚悟で、債務者は請求しなければならないのか。今後の動向に注目が集まる。

金利引き下げに踏み切るアコム、静観の構えのプロミス

 アコムは10日、新規融資について金利を年12〜18%に引き下げると発表した。すでに武富士も、年9.125%の商品を扱っており、優良顧客の囲い込みが過熱しそうだ。

 「平成18年版 消費者金融白書」(JCFA・NIC会発刊)によると、大手消費者金融は17%台の経費を計上することで、営業利益5.5%を確保している。金利を下げると営業収入が減少するため、「経費を15%以下に抑えなければ、現在の利益水準を保つことが難しくなる」(アコム広報部)。

 金利の引き下げについてプロミスは「収益に与える影響が大きい」(広報部)ため、静観の模様だ。いずれにせよ残り2年半のうちに、金利を引き下げなければならない。どのタイミングで実行するかで、業績を大きく左右しそうだ。

ビジネスモデルの変更

 コスト構造を改革するためプロミスでは、新事業戦略を打ち出した。7月に「Doファイナンシャルサービス」を立ち上げ、中古車売買の金融決済サービスを始める。このほか銀行との保証ビジネスを拡大させていく方針だ。

 業界を取り巻く環境によって、中小の業者の淘汰が進めば、寡占化が予想される。そうなれば市場内でのシェア争いは、これまで以上に厳しい局面を迎えそうだ。グレーゾーン金利の撤廃、総量規制が導入される2010年までに、ビジネスモデルの変更が必要であろう。

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