ニコニコ動画で活気付くか、株主総会 保田隆明の時事日想

» 2007年05月10日 01時49分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

著者プロフィール:保田隆明

やわらか系エコノミスト。外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「投資事業組合とは何か」「なぜ株式投資はもうからないのか」「株式市場とM&A」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


 6月の株主総会シーズンが迫ってきた。ここ数年、企業は株主総会で株主をもてなすことに前向きに取り組んできた。例えば、コンサートを開いたり、自社商品のサンプルを配布してみたり、あるいは経営陣との懇親会を開いたり。そして、かつてはどの会社も一斉に平日の昼間に株主総会を開催していたが、サラリーマン株主が参加しやすいように週末に開催するなど、他の企業と総会日時をずらすケースも増えてきた。

 これらの取り組みは、株主に自社のファンになってもらい、株式を長期保有してもらうためのものである。懇親会を開いている企業の場合は、株主の声を直接聞く貴重な機会ということにもなる。

身近な株主総会に

 10年以上前の株主総会は、いわゆるシャンシャン総会(議長がお決まりのセリフを読み上げて、「異議ナーシ!」とサクラの人たちが大声を上げて一般株主から無駄な質問が出ないようにし、シャンシャンと締めて終わらせてしまう総会)がほとんどだった。株主総会は、経営陣による株主との対話の場という本来の機能をすることなく形骸化していた。

 それが、平成金融不況で安定株主を失った企業が、今度は個人投資家に株式を長期保有してもらうことで株主を安定させようというもくろみのもと、上記のような株主総会でのおもてなしイベントが登場することとなる。そして、今や株主総会は投資家にとって、「ちょっとのぞいてみるかな」と半ば興味半分でも参加してみたくなるような身近なものに変身した。

株主提案の内容が多様化

 そういう株主総会だが、今年は「株主提案」と「オンライン配信」でより活気付きそうである。株主提案とは、株主が企業に対してこんなことをしてほしいという要求を株主総会で提示し、全株主がその提案に対して賛成か反対の投票をするものである。よくあるものとしては、配当の増額、取締役がもらっている役員報酬の開示の要求などがある。株主提案が出てくる背景として多いパターンは、経営陣の取り組みや企業の現状に不満を持つ株主が株主提案を「叩きつける」ものだ。それに対して、経営陣が反対姿勢を取り、経営陣と親しい安定株主も反対に回って、株主提案は否決されることが多くなる。

 今年は、従来から存在した典型的な株主提案内容に加えて、ペンタックスのように株主が独自に役員の選任案を提出するケース、他には敵対的買収防衛策の撤廃を求めたり、MBO(経営陣が株主から自社の株式を譲り受ける)を求めるようなケースもあったりで、株主提案の内容が多様化してきている。そして、これらの議案に対して、株主からの賛否の投票結果は割れる可能性がある。結果次第では企業の経営体制が大きく変わるので、今までのようにすべての議案で賛成多数で可決されるつまらない株主総会ではなく、小学生の時の学級委員会の多数決で学級委員長を選ぶ時に味わったような、あのドキドキ感を再び株主総会で味わえる可能性があるのだ。これは、皮肉なことに、自社商品のサンプル配布や経営陣との懇親会など、今まで企業が工夫を凝らしてきた株主を株主総会に誘導する取り組み以上に、株主にとっては株主総会に足を運びたくなるイベントだと思われる。

ニコニコ動画で総会を楽しむ?

 また、最近では株主総会の模様をオンラインで動画配信する企業も登場してきている。議案への投票そのものは事前郵送で可能なので、株主総会の様子を見るだけであれば動画配信でも十分だ。去年までであれば1人でPCの前に座ってこの動画配信を見ていただろうが、今年はニコニコ動画を活用すれば、他の人たちとバーチャルで一緒に株主総会を楽しむ、といったことも出来るかもしれない。

 株主総会の動画上に「異議アーリ!」「賛成!」「ちょっと待てー!質問遮るなー!」などいろんなコメントが書き込まれることで、株主総会がエンターテイメントなコンテンツに化ける可能性もある。

 4月の東京都知事選でも、候補者の政見放送がYou Tubeでアップされて多くのアクセスを稼いだことに関係者は慌てたらしいが(4月3日の記事参照)、同様に株主総会でも、そのような予想外の事態が生じる可能性があり、そして皮肉なことにそんな状況こそが株主を株主総会に引き付けるきっかけになるかもしれない。

 さて、そんな愉快な株主提案であるが、株主であれば一度は何か提案してみたいと思うだろう。しかし、株主提案が出来るのは、発行済株数の1%以上の株式を保有する株主に限られる。時価総額100億円の企業の場合は、1億円以上をその企業の株式に投資している株主に限られるので、一般個人投資家が株主提案をする機会は残念ながらほぼゼロである。

 梅雨シーズンの休日の過ごし方として、家で株主総会の動画を見る――そんな人が増えるかもしれない今年の株主総会模様である。

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