「タイムイズマネー」か?「マネーイズタイム」か?――なぜ金持ちは借金してBMWを買うのか山口揚平の時事日想:

» 2007年04月17日 08時46分 公開
[山口揚平,Business Media 誠]

著者プロフィール:山口揚平

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。


「時は金なり」という金言は誰でも知っている。時間はお金を払ってでも手に入れたいくらい価値がある、だから有効活用せよ、という意味だ。

 だがファイナンスの世界では、「時は金なり」というと、時間価値のことを指す。俗に言う“複利効果”というものだ。

お金は自己増殖し、時間とともにその価値を増していく

 お金は自己増殖するという性質を持っている。なぜなら貨幣は「腐らない」からだ。肉や魚は腐る。だから食べてしまうか誰かと交換することになる。ところが、肉や魚の媒介であるお金は腐らない。だから人はそれを貯蓄することができる。ところが経済活動をする上ではお金はどうしても必要だ。そうなると貯蓄されたお金を動かす“動機”が必要となる。それを利子という。この利子により、貨幣は時間とともにその価値を増してゆくのである。金持ちはこういった貨幣の本質を、腹の底から理解している。

 意外に思われるかもしれないが、金持ちはBMWを借金で買う。なぜなら、BMWのローンの金利はたった3%でしかないが、自分のお金は15%で運用できるからだ。本当の金持ちは、ビジネスや投資で15%で運用できる自分のお金を取り崩し、即金で車を買うようなことはしない。お金があることと、お金をうまく使うこととはまったく別の話なのだ。

 昔、「マルサの女」という映画があった。国税局の査察官(宮本信子)が、ラブホテルを経営する権藤英樹(山崎努)の脱税を摘発する物語だ。その中に、査察官が権藤に、「どうやってお金を貯めたのか?」と聞くシーンがある。権藤はこう答える。

「一滴、一滴、コップに水を貯める。コップに水が半分貯まったところで、普通の人は喉がカラカラだといって飲んでしまう。これじゃあ駄目だ。コップに水が一杯になるまでじっと待つ。一杯になってもまだ飲まない。コップから溢れた水を舐めるのだ」

 ほとんどの人は、お金を得たらそれをお金以外のものに交換する。これを消費という。金持ちは、お金をさらにお金を生むものに交換する。これを投資という。この習慣的行動の違いが、時を経て、両者の資産を大きく分けるのである。

マネーイズタイム――金は時なり

 さて、ではもう一方の「マネーイズタイム(金は時なり)」とは何か?

 これには2つの解釈がある。1つは、お金があれば時間に余裕ができる、ということだ。お金があるからこそ、ゆとりをもったクオリティオブライフを満喫できるという考え方である。

 だがこれは消極的な見方だ。「マネーイズタイム」というときには、お金で時間を買う、という見方のほうがより積極的だ。

 欧米のエリートビジネスマンは、借金をしてでも若いうちにMBA留学に行く(連載・ロサンゼルスMBA留学日記)。帰ってくれば、年収1000万プレーヤーになることがわかっているからだ。だったら、HSBC(香港上海銀行)で年利5%で借金をしてでも、20代半ばで学位を取ったほうがいいと考える。いわば前借り、よくいえば先行投資である。

 ファイナンスの本質は、「前借り」、つまり将来の利益のために、今お金を調達することにある。最近はすっかり日本にも定着したM&A(合併・買収)の本質も、実は“時間を買う”ということにある。自分たちでイチから作り上げる(グリーンフィールド)より、すでにあるものを買う、という発想である。三角合併※が可能になった今、M&Aや投資の素養は、ビジネスマンに必須のスキルとなりつつある。

※三角合併…会社を合併する際、消滅会社の株主に対して、対価として、存続会社の株式ではなく親会社の株式を交付して行う合併。日本では2006年に解禁され、株式時価総額の大きい外国企業が、日本の国内企業を買収しやすくなると見られている。

今後必要になるのはタイムイズマネー? マネーイズタイム?

 ところで日本人は、借金が嫌いである。多くの人がお金を借りるのではなく、お金を貯めてから、何か事を起こそうと考える。よくいえば堅実といえるが、裏を返せば「お金をコントロール」する力に長けていないという見方もできる。

 私は、お金は、社会への貢献の結果であるとともに、将来の可能性そのものだと思う。日本人はこれまでお金の話題を避けてきたが、そろそろお金を肯定的に捉えるのはどうだろうか?

 お金には生き金と死に金があるはずだ。「消費」のために借金をするのが愚の骨頂だが、将来への投資のためにお金を使うスキルと勇気を養う必要がある。資本主義の世界では明確なビジョンと、可能性の高いプランさえあればお金を調達することが可能だ。お金がないから何かができない、と考える必要はない。

 そう考えると、これからの私たち若者に必要なことは、時間を切り売りしてお金を得る「時は金なり」の発想ではなく、「金は時なり」と考え、お金をコントロールしながら、大きな将来ビジョンを達成してゆくスキルではないだろうか。

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