――上海の工場跡地や倉庫街から産まれた「莫干山路50号」は、日本でも話題にのぼっています。中国においてのアートシーンにおける、こういった動きや盛り上がりについて、どうお考えになられますか? 「中国の現代アートのパワーは日本を凌駕しています。莫干山路50号は、2002年に上海市経済委員会によって、創意産業区(クリエイティブエリア)として正式に認められたエリアです。現在の中国は、政府がアーティストやデザイナーの育成や保護にかなりの力を入れており、このエリアにも優遇措置がとられています。創作活動にはお金がかかりますし、そうそう作品が売れるものでもないですから、新進のアーティストが力をつけられるチャンスだと参入してきています。同じようなエリアでは北京の『大山子芸術区798』などがありますが、ことアートシーンの盛り上がりについて上海は特別ですね」 |
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――中国の中で、上海が特別な都市だということですか? 「そうです。租界地だった上海は、南西エリアはフランスの文化を色濃く残し、中心エリアはイギリス、北エリアは日本やアメリカの色が濃い。ですから、上海の土壌はすでにDNAにインターナショナルな感性を備え持っている。美意識や直感が強いんですね」 ――美意識や直感の強さが、センスや審美眼につながっているということでしょうか。 「残念ながらそうとも言い切れません。中国人の多くは、ものの価値を蓄財や投機で見ています。ですので、デザインよりも素材……24金であるとか、値上がり率を重要視しがちです。現在の中国アート市場は、顧客の多くが中国人ですね。投資家が売れっ子の画家と専属契約し、オーダーメードで描かせるというケースが多いです。アーティストは契約した枚数の絵を描いているだけで、広いアトリエを与えられて王様同様の優雅な生活をしています。そういった売れっ子アーティストの作品は、ほとんど市場には出てきませんし、億単位の値がつきますね」 |
――それは、すごいですね! 「その半面、アーティストや作品についての情報操作もありますし、多くの中国人にとってアートの市場は、株式や不動産投資市場とまったく同じように考えられていると思います」 ――政府がアーティストの育成や保護に力を注いでいるとのことですが、教育面についてはいかがでしょうか? 「私は中国ではトップクラスのレベルである浙江省の杭州にある中国美術学院において教授をしていますが、中国の美術大学は美術学院といいまして、4年間の学部制です。その後、国内において修士、博士課程に進む道もありますが、ヨーロッパ……特にフランスなどへ留学するケースが多いです」 |
――本来は自己表現の場であるアートシーンを政府が主導するということについては、どう思われますか? 「元々政府はアートシーンを主導する目的ではなく、プロダクトデザインやIT開発といった分野を発展させる為、創意産業区を作りました。しかしデザインはすぐに真似されてしまい本来の目的であるデザインの創造地として発展することは残念ながら今のところ出来ていません。今までの中国ではコピーが横行していましたよね。たとえば、欧米から買ってきたブランド品を真似て模造品を作る。でも、これからは、それでは国際社会から非難を受けてしまいます」 「本来、中国にはオリジナルの素晴らしい文化があるのですから、それを表現する力を政府も求めている。今後は本来の目的であるデザインの発展とともにアートシーンが発展することを願っています。アートシーンに関しては、特に現代的な前衛アートに関しては、政府に主導されなくともすでに世界的に認められています」 |
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「今の中国人アーティストの主要なテーマの潮流は、文革、中国北西部の民俗文化、それとチベットです。素朴でストレートでパワーに溢れた、これまでに見たことのないような作品が多く発表され、欧米を始め世界各国から注目されています」 ――エネルギーの強いアーティストとは、文革を経験した方が多いのでしょうか? 「やはりそうですね。抑圧されていた表現力が爆発するのは、私と同じ年齢くらいの人たちだと思います。もっと若い世代になると、そういったパワーは弱くなっていくかもしれません」 ――表現の自由は保障されていますか? 「それは問題ありません。たとえば、毛沢東元主席をテーマにした作品は多いですし、芸術作品としてのヌードも問題ないです。アメリカでも、よく大統領を風刺したアートがありますよね。そのうちそろそろ、江沢民元主席をモティーフにした作品も現れるのではないでしょうか(笑)」 |
写 真:永山昌克
構成・文:似鳥陽子