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ブロガーを起用する、プロの目に迫る
“感情移入しやすい文章”がブロガーの魅力――小山薫堂氏

 ブロガーに興味を持つ理由を“神秘性”と仰るのは、放送作家の小山薫堂さん。先にご登場頂いたゴージャスカレー姉妹さんをラジオ番組のゲストに招いたきっかけは、ひょんな会話からだったそう。
 「モータージャーナリストの渡辺敏史さんと話をしていたとき、『面白いカレーブログを書いている女の子がいるんです』と言われ、早速、チェックしてみました。するとこれが、独自の文体と確かなフィールドワークでかなり面白い。どんな人が書いているのか、会ってみたいと思い、ゲストに呼びました。つまり、ブロガーという神秘性に興味が沸き、ラジオを利用して本人に会ってみた、というのが正直なところです」
 プロの文章より、俄然、感情移入しやすいのが、ブロガーの文章の魅力とのことである。

小山薫堂

小山薫堂氏

放送作家。クライアントニーズをエンターテインメント化したテレビ番組を数多く企画。2003年には「トリセツ」(テレビ朝日)で国際エミー賞を受賞。現在「¥トシガイ」(日本テレビ)、「エコラボ」(フジテレビ)、「世界遺産」(TBS)などを手掛ける一方、J-WAVE・FMヨコハマでは企画・プロデュースに加え、自らパーソナリティーも務める。そのほか「UOMO」「BRIO」「dancyu」など数々の雑誌連載、小説執筆、絵本の翻訳、商品開発やプロデュースなど活動分野は多岐に渡る。
「Tokyo lifestyle lab.N35」

αグルメブロガーは“スーパー素人”――アスコム 柿内尚文編集長

 「(株)アスコム」第三編集部・柿内尚文編集長は、ブロガーを起用する理由を「情報メディアとして雑誌の信頼性が以前に比べて落ちたため」と語る。
 「情報の速さと新しさという点において、雑誌というメディアは残念ながらインターネットに負けています。グルメ記事を掲載すると、まずブログなどでその店を検索し、評価を確認してから行動に移すという読者が増えてきました。雑誌に載っているというだけで、わざわざ足を運ぶことは少なくなってしまった。従来のように単に“美味しい店を紹介”するだけでは、雑誌の生き残りは厳しくなっています」
 そういった現状の中で編集者は、プロのライターとブロガーとの違いをどう捉えているのだろう?
 「我々はαグルメブロガーを“スーパー素人”と捉えています。プロのライターの場合、自分で実際に食事をしたことがない店の記事も書かなくてはいけない場合が多くあります」

 「私たちがブロガーにお願いする場合は、ブロガーが実際に自分のお金と足を使ってセレクトしたお店の情報を書いてもらうので、記事の視点が主観的で読者の共感を呼びやすい。新店オープンの情報などはプロの方が掴むのが早いですが、その店の実際の味や雰囲気は、プライベートで行っているブロガーの方が情報精度が高い場合もあるんです」

「(株)アスコム」第三編集部・柿内尚文編集長
築地王のまるうまグルメ帳 東京レストランライフ

「TVチャンピオン築地王選手権」で優勝した築地王氏が、美味しい店・信頼できる店を厳選した「築地王のまるうまグルメ帳」(¥980)。
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レストランを“大人の遊び場”と定義し、この一冊でレストランの“今”がわかるグルメライフスタイルマガジン「東京レストランライフ」(¥980)。
グルメブロガーおすすめの店や、グルメライフスタイルも掲載されている

 また、固定ファンへの影響力が強いαブロガーの起用は、雑誌とインターネットの双方向で共感が高まり、雑誌のファン層を増やすことができるというメリットもあるのだそう。

 とはいえ、多忙な編集者は、全てのブログに目を通すことは不可能だ。アクセス数の多いブログや、運営者のキャラクターが立っているブログに白羽の矢が立つことがほとんどであるのだが、食に関するプロとαブロガーとのリアルな交流の場から起用が派生することもある。

メディアの人間もブロガーも同じ土俵――「フードジャーナリスト会議」

 2006年秋に発足し、テレビ、出版、新聞、WEBなどを中心に、「食」と「食メディア」に携わるプロフェッショナルが集う勉強&交流会「フードジャーナリスト会議」。各界のトップランナーをゲストスピーカーに招き最前線の話をうかがう月例セミナーには、毎回100人前後のプロフェッショナルが出席する。

 会場で配布される出席者名簿には、「出版関係」「テレビ関係」「PR・プロデュース・コンサルティング」「飲食店経営」など、「食」ビジネスに関わるプロフェッショナルのカテゴリーが並ぶ中に、「αブロガー(人気ブロガー)」が独立してカテゴライズされている。

フードジャーナリスト会議

 出版や雑誌寄稿など、プロのライター以上の執筆活動を行うブロガーが存在する昨今だが、αブロガーの位置づけについて、主宰のわぐりたかしさんにうかがった。

写真は後藤晴彦さんをスピーカーに招いた、第8回目の「フードジャーナリスト会議」の模様。撮影者は、食を通じた交流を積極的に広げている「くにろく東京食べある記」運営者のくにさん。オフ会参加回数は月に15回以上というから驚き!

 「メディアの人間もブロガーも、不特定多数に情報を発信しているという意味では、同じ土俵に立っているわけで、かつてこうした状況は、なかったことですよね。場合によってはブログの方が影響力が大きいことだってありますし、プロ、アマ問わず、情報発信者は、自分の言葉の影響力を常に意識する必要があると思うんですよ」

 例えば、レストラン内で周囲の状況を無視して写真を撮りまくったり、エキセントリックな批判を載せるブロガーが増えると、トラブルに発展することもある。プロから注目を浴びるαブロガーの資質として、モラルや自己責任などの高い意識も求められてきているのである。

わぐり・たかし氏

放送作家。超ゴージャスなセレブ番組「世界バリバリ☆バリュー」(TBS)からその対極にあるスローライフな雑誌「ソトコト」のTV版「ハッピー!ロハス」(BS朝日)まで幅広い番組を担当。今話題の“美食の王様”来栖けい、築地王、B級グルメ王、ヤキニクエスト、東京カリ〜番長をはじめ、グルメ雑誌編集長や人気フードライターなど飲食業界で活躍する知己に恵まれ、超A級三つ星クラスから庶民派B級グルメまで美味しいモノの情報には事欠かない。汐留名物「汐留らーめん」の発案者であり、「日本フードジャーナリスト会議」を主宰。「野ブタ。をプロデュース」「愛の流刑地」などのドラマ企画も手がけ、出版プロデューサーとしても活躍中。

わぐり・たかし

取材・文/似鳥 陽子