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電気自動車で高級住宅街をクルーズしてみた
地球に優しくてドライバーにも優しい

 ただコンパクトなだけでなく、かといってデザインオリエンテッドなものでもない。イタリア生まれのエコカー「ジラソーレ」の木の葉のようなカタチには、アルミニウム製のスペースフレームが採用されている。この構造は、軽量ながら高い強度を確保できる半面、大量生産には向いていない。そのかわり車両重量420キロながら、4トンもの静的圧力加重に耐えられる設計になっているという。小さいボディだが、安全面をおろそかにしない。地球に優しくてドライバーにも優しい、それがエコカーの必須条件なのかもしれない。

ジラソーレ01

 満充電時の航続距離は120キロメートル。シート下に収納されたリチウムイオン充電池は、従来のものより繰り返し充電に強く(つまり寿命が長い)、発熱性が安定している新型タイプを採用している。このリチウムイオン充電池は米国のミリタリースペックのもので、原子力潜水艦や無人偵察機に採用されているほどの信頼性の高いものだ。

ジラソーレ02

 運転席に収まると、不思議な安心感に包まれる。軽量化のためボディパネルはABS樹脂を採用しているのだが、フレームがしっかりしているせいか、ヤワな印象はまったく感じられない。従来車と同じくキーを回して始動させるのだが、セル音もなければエンジン音もない、まったくの無音状態。サイドブレーキが引かれていることを告げる警告音だけが小さな車内に響く。

 サイドブレーキを解除すると、本当に静寂が広がる。自動車のウインカーの音をこんなに意識したことはかつてなかっただろう。アクセルを踏み込むと、スルスルッとすべるように走り出し、いとも簡単に幹線道路の流れに乗ってみせた。駆動方式は後輪駆動の2WD。最大トルク26.0Nmのパワーで、2人乗車で時速0〜40キロメートルまでを約3.1秒で到達する。その加速は、車重のある普通乗用車をあっというまに置き去りにするほどのダッシュ力を持つ。最高速は時速65キロだがそこまでの加速が速いため、高速道路に乗らない限り、街乗りでは不便は感じないだろう。

ジラソーレ03
“身近なクルマ”としての電気自動車

 片側3車線の幹線道路から路地に入ると、そこからはジラソーレの独壇場。狭い小道であろうと、路上駐車があろうと、スイスイ・キビキビとフットワークよく走り抜けていく。そのまま、とある高級住宅街のレトロモダンな駅前に到着。ここが今回の撮影場所である。

 駅のロータリーを微速でクルーズすると、多くの歩行者が振り返り、優しい顔になってその姿を見送ってくれる。停車して撮影していると、すぐに歩行者が寄ってきて質問攻めだ。

 「ええ、電気自動車なんです。充電は家庭のコンセントからできますよ。ほら、ここにコードが入っているんです。ケータイ感覚ですね。ええ、販売してますよ。260万円ぐらい」

 いつの間にか、にわかセールスマンになっている自分に苦笑い。高級住宅街だからか、価格よりもデザインとエコロジーさが受けていたようだ。

ジラソーレ04

 欧州では市街をどんどん走り回っていて、すでに身近なクルマとして定着しつつある電気自動車。バッテリー技術の進歩が、電気自動車の実用性を後押ししている。欧州では環境保全のため電気自動車しか入れない区域を定めているところも多く、それが電気自動車の普及にもつながっている。

 日本初の実用的に使える電気自動車「ジラソーレ」。この“今すぐ買えるエコカー”の木の葉型デザインは、CO2削減で得られる緑(自然)の象徴でもあり、人類を育むユリカゴ=地球を暗示しているのかもしれない。



取材協力

オートイーブイジャパン http://www.auto-ev-japan.com/