パフューム ある人殺しの物語+D Style 最新シネマ情報

» 2007年02月23日 15時55分 公開
[ITmedia]
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 悪臭漂う18世紀のパリに産み落とされた少年グルヌイユは、驚くべき生命力を持ち、過酷な時代を生き抜いてみせる。彼にとっての生きる糧は“香り”。彼は何キロも先のにおいをかぎ分ける超人的な嗅覚の持ち主だったのだ。数年後、青年となったグルヌイユは、街で偶然見かけた赤毛の美少女の香りに激しく反応し、後をつける。そしておびえた彼女の口をふさぎ、誤って殺してしまう。やがてグルヌイユはパリで売れっ子の香水調合師として働きながら、あの赤毛の少女の香りを再現しようと、殺人を重ねていく……。

 におい。この最も映像化が難しい感覚を、「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクヴァ監督が華麗なカメラワークで見事にスクリーンによみがえらせた。魚が腐った悪臭も、一面花畑の蜜のような甘い香りも、香水の芳しい香りも、スクリーンから実際に漂ってきそうな演出はお見事。

 さて、誰にでも、他人には理解されずとも、どうしてもそそられてしまうモノが1つや2つあると思う。この主人公グルヌイユは究極のにおいフェチ。すべての香りを形にして残したい、封じ込めたいと願い、そのためならば平気で人をも殺める。香りへの偏愛が彼を病的な行動に走らせるが、その手が作り出す香水は瞬く間に評判となり、金持ち連中がこぞって買いにくる。原材料が何かも知らずに……。この皮肉な展開は現代の社会批判にも通じるところがある。

 いわゆる猟奇殺人もので、グロテスクな映像が多数登場するにもかかわらず、嫌悪感を抱かせないところもすごい。なぜか? それは究極の香りを作りたいというグルヌイユの純粋な気持ちゆえ。天才と狂人は紙一重とはよくいったもので、殺人鬼が芸術家に見えてしまうから不思議なものだ。

 ラスト15分の、ありえない光景を好きになれるかどうかで評価が分かれそうだが、グルヌイユが作り出した究極の“あの香り”をかいでみたい……無理とは分かっていても、そんな気持ちにさせられる、何とも危険な香りのする映画なのである。

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パフューム ある人殺しの物語

監督・脚本・音楽:トム・ティクヴァ/原作:パトリック・ジュースキント

出演:ベン・ウィショー、ダスティン・ホフマン、アラン・リックマン、レイチェル・ハード=ウッド

配給:ギャガ・コミュニケーションズ

2007年3月3日 サロンパス ルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にてロードショー

(C)2005 Constantin Film GmbH



筆者プロフィール

本山由樹子

ビデオ業界誌の編集を経て、現在はフリーランスのエディター&ライターとして、のんべんだらりと奮闘中。アクションからラブコメ、ホラーにゲテモノまで、好き嫌いは特にナシ。映画・DVDベッタリの毎日なので、運動不足が悩みの種。と言いつつ、お酒も甘いものも止められない……。


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