着実に成長する商用車テレマティクス 神尾寿の時事日想

» 2007年03月22日 14時43分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 3月20日、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)が企業のモバイル活用事例を表彰する「MCPC award 2007」を発表した(3月20日の記事参照)。グランプリおよび総務大臣賞には、いすゞ自動車の運行情報ASPサービス「みまもりくんオンラインサービス」が選ばれた。いすゞのみまもりくんオンラインサービスはKDDIの通信モジュールを使った日本初のASP型商用車テレマティクスで、2004年からサービスを開始している(2004年2月の記事参照)

 みまもりくんオンラインサービスでは、クルマの車載コンピュータ(ECU)の情報を通信モジュール経由でサーバに集めて、車両管理や運行管理を行う。柱となるのは商用車の省燃費支援機能だが、車両管理によるメンテナンスコスト削減と安全向上、運行管理による物流効率の向上など、さまざまなメリットがある。

 日本では1998年からトヨタ、日産、ホンダが乗用車向けテレマティクスの普及に力を注いだことから、商用車テレマティクスはあまり注目されてこなかった。しかし世界的な流れを見ると、商用車テレマティクスは“省燃費支援”と“物流効率の向上”のニーズから今後急成長が予想されている分野である。特に昨年の世界的な原油価格高騰後は、商用車テレマティクスへの注目度が高い。

 海外のプレーヤーを見ると、オランダのPNDメーカーであるTomTomが、ASP型の商用車テレマティクスサービスを投入。また北米でも、PNDやPND機能付きスマートフォン向けの商用車テレマティクスサービスの開発が進んでいる模様だ。

 商用車テレマティクスは「省燃費・安全支援によるコスト削減」と「物流効率の向上」とニーズがはっきりしているため、導入企業の収益に貢献すると認められれば普及が一気に進む。“火が点けば広がるのが早い”のが特徴だ。特に、原油コストの高止まりが引き続き、Co2削減要求の高まりが予想される物流分野では、世界的に商用車テレマティクスの普及・拡大が進みそうだ。いすゞが国内市場での展開だけでなく、今後、海外市場に進出する姿勢は正しい。

国内市場の注目は「小規模・短距離・多頻度」

 一方、国内市場に目を向けても、商用車テレマティクスの市場はまだ十二分に残されている。現在、いすゞのみまもりくんオンラインサービスをはじめとする商用車テレマティクスの主力市場は大型・中型トラックによる中〜長距離輸送だが、まだ開拓されていない領域として「小規模・短距離・多頻度」の物流分野が残っているからだ。特に今後、少子高齢化によるデリバリービジネスの拡大や、きめ細かな時間帯や配達条件の指定など高付加価値配送サービスの増加などが進むことを鑑みると、この分野には商用車テレマティクスのニーズがまだ多く残されているといえる。

 実際、いすゞでも当初は「GIGA(大型トラック)」だけだったみまもりくんオンラインサービスの適合車種を、「FORWARD(中型トラック)」や「ELF(小型トラック)」まで拡大している。

 また、ユニークなところでは乗用車メーカーのホンダが、乗用車向けテレマティクス「インターナビ」で培った高精度な渋滞情報・予測システムを企業向けに提供する「internaviBiz」を昨年11月に開始している(2006年11月の記事参照)。業務使用するホンダ車向けに商用車テレマティクスを展開している。ちなみにホンダのインターナビは、今回の「MCPCアワード2007」で奨励賞を受賞するなど、乗用車向けでは高く評価されているテレマティクスサービスだ。

 日本の商用車テレマティクスは始まったばかりのマーケットであり、今後、堅実な成長が見込める注目分野の1つだ。モバイル通信産業の視座では、通信モジュール市場の規模拡大、商用車テレマティクス向けビジネスの拡大などに期待できる。さらに今後、商用車テレマティクスの裾野が広がれば、スマートフォンを改良した商用車向けPNDといった展開もあるかもしれない。

 自動車産業の動きは携帯電話やモバイル通信産業の動きに比べて遅く、テレマティクスビジネスは「過去のもの」と感じている人もいるかもしれない。そんなことはない。実際はビジネスモデルの模索と実現に時間がかかるだけで、商用車・乗用車ともに「テレマティクスビジネスは、これから始まる」分野なのだ。

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