動画会員50万がSNSと連携するインパクト──フロントメディアに聞く携帯動画の可能性

» 2006年12月22日 15時55分 公開
[石川温,ITmedia]
Photo フロントメディアの市川茂浩社長

 ワンセグのスタートや高速化された通信インフラにより、今後、携帯分野で急成長すると予想されるのが、携帯電話向けの動画配信サービスだ。

 この動画配信ビジネスの可能性に早いうちから着目し、携帯向け動画のストリーミング配信サービスを開始したのがフロントメディア。同社を率いる市川茂浩社長に、動画配信ビジネスの現状や手応え、今後のビジネス展開について聞いた。

 フロントメディアは2005年6月に設立された、まだ新しい会社だ。社長の市川氏は、大手コンテンツプロバイダのiモードサイトプランナーを経て、フリーのモバイルコンテンツプロデューサーとして活躍。数百ものモバイルコンテンツを立ち上げてきた実績がある。

 動画配信にチャンスがあると気付いたのは、着うたが登場し始めた2002年頃だったと市川氏は振り返る。「着うたの登場に伴い、“権利”に絡む仕事が増え、音楽や映像、映画、ラジオなどの権利ビジネスに関わっていく中で分かったのが、その頂点にあるのはテレビだということ。そして携帯電話は今後、メディアのハブ(中心)の役割を担っていくことになる。ならばメディアとして発信することと、そこに生まれる広告の両方の最前線に立つことがこれからのモバイルコンテンツの可能性を広げると考え、『フロントメディア』という会社を設立したのです」

 同社の主力ビジネスは、NTTドコモのFOMA向けに展開する、無料の動画配信サービス「Qlick.TV」(クリック ドット ティービー)だ。Qlick.TVでは「ニュース」「音楽」「映画」「アニメ」「バラエティ」「ライフ」の5つのカテゴリーの動画を1日平均50本のペースで配信。オンデマンド配信とシンクロ配信を行っており、ライブ放送、プッシュ配信を含めて約50万人の会員がいる(12月21日の記事参照)

Photo Qlick.TVでは、TBSやBBCのニュースといった短い動画から、映画「フラッシュ・ゴードン」、アニメ「ひぐらしのなく頃に」など30分程度の動画まで、幅広いジャンル/長さの作品をラインアップしている。配信用の技術として採用したのはjig.jpのjigムービー。動画を視聴するには多額のパケット通信料がかかるため、パケット定額プランへの加入を前提としている

携帯動画の利用動向と“携帯ならでは”の動画のあり方

 携帯動画は、どんなユーザーがいつ、どこで、どんなスタイルで視聴してるのだろう。市川氏はQlick.TVの利用動向を次のように説明する。

 「TBS(東京放送)のニュース映像のようなコンテンツはユニークユーザーが多く、1〜2分の短い映像が好まれます。アニメ系の番組は、30分ものでも最後まで見るユーザーがほとんど。寝る前や休日にじっくりと家で見ているユーザーが多いようです。Qlick.TVのユーザーは、少ない人でも月2〜3時間、ヘビーユーザーになると月100本近い番組を見ています」(市川氏)

 ながら視聴が多いのも、携帯動画の視聴スタイルの特徴だという。「ケータイはさまざまなものと相性がよく、テレビやPCを見ながら携帯動画を使っている人も多い。ケータイは画面が小さいので、テレビのディスプレイなどとは競合しないのだと思います」

 フロントメディアでは、ニュースや映画、アニメなどの既存コンテンツに加え、自社制作のオリジナルコンテンツも徐々に増やす計画だ。これは、“携帯ならでは”のコンテンツとは何かを探る試みでもある。

 「ケータイは1人が1台使うという、まさにこっそりメディア(笑)。こうした性格上、1人のパーソナリティが視聴者に直接話しかけるようなスタイルのものがベストだと思います。『あなたに送る』という姿勢が大事というわけです。これは、テレビ番組をそのままサイマルで放送するワンセグとは根本的に違います」(市川氏)

 市川氏はまた、番組コンテンツだけでなく、モバイル向け動画CMにも“携帯ならでは”の見せ方があると話す。「テレビ向けのCMなどをそのままケータイ向けに投入しても効果はありません。今後は新しいCMのカタチをつくっていく必要があるでしょう。ヒットするモバイルCMを作れるクリエイティブの人材が求められています」(同)

動画とSNSを結びつけて、新たなマーケットを創出

 フロントメディアでは12月1日から、視聴者参加型の投稿番組「Qnight」をスタート。さらに2007年には番組と連動したSNSを開設し、SNS連動型の視聴者参加型放送を提供する計画だ。自社で制作した番組を、月曜日から金曜日までの毎日午後10時から放送。番組はオンデマンドで翌日10時まで視聴できる。

 このプロジェクトの狙いは、携帯動画とSNSの連動によって生まれたコミュニティをマーケティングに結びつけることだ。まずは番組にモバイル動画CMを入れることで視聴を無料とし、視聴者を集める。そこにSNSを設置して、ユーザーがコミュニケーションを図れる仕組みを整え、さらにそのユーザーをターゲットに企業がマーケティング活動を行う──というのが基本的なスタイルになる。

 「携帯動画の視聴者がSNSに参加することで、これまでにはなかったメディアが誕生します。それはユーザーが作り出す、全く新しい口コミメディア。そこに企業がケータイ動画CMによる広告を展開することで、これまでとは違ったマーケティング活動が可能になります」(市川氏)

 携帯向けSNSは、キャリアや大手ショッピングモールも参入するなど、競争が激化している。フロントメディアに勝算はあるのだろうか。

 「今のPC向けSNSは30代がメインユーザー。一方、ケータイSNSは20代以下が中心になるでしょう。79世代(1979年以降に生まれたユーザー)以降は間違いなく携帯です。弊社の動画配信サービスの登録会員は50万人にのぼり、ここからSNSを始められるのは強みになる。あとは企業がマーケティング予算を入れてくれるかどうか、といったところです。

 今のSNSには“生感”、つまり躍動感がない。フロントメディアとしては、動画と連携させることでアクティブな媒体に育てていくつもりです」(市川氏)

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