あらゆる面でスピード感を変えたソフトバンク 神尾寿の時事日想: (1/2 ページ)

» 2006年09月29日 17時29分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 「ボーダフォンはauに比べて、周回遅れどころか、2周くらいの差を付けられているかもしれない」

 今年初頭、ボーダフォンのある幹部はそう漏らした。彼はJ-フォン時代からのプロパーであり、ボーダフォン体制下になってからの混乱や士気の低下に危機感を募らせていた。個人でauを契約して使い、ボーダフォンの端末やサービスとの格差、引き離された距離の長さを実感したという。彼はその後ボーダフォンを去ることになったが、その嘆息は今でも筆者の印象に残っている。

 9月28日、10月1日のブランド変更を前にして、ソフトバンクは13機種54色の新モデルを発表した(9月28日の記事参照)。さらにコンテンツサービスも大幅にリニューアル。かねてから予告されていたYahoo!との連携サービスだけでなく、IM連携サービス、プッシュトーク、プッシュ型ニュース配信など多岐にわたる新サービスが発表された(9月29日の記事参照)。また通信インフラの面では、HSDPA方式の高速データ通信サービス「3Gハイスピード」も10月から提供開始。当初のエリアは東京23区および政令指定都市の一部地域だけだが、通信インフラの高速化にも乗り出した。

 今回のソフトバンクの新端末・新サービスを一言で評するならば、「急速なキャッチアップ」だ。冒頭のボーダフォン元幹部の述懐が象徴するとおり、誤解を恐れずに言えばボーダフォンは遅れていた。業界1位のNTTドコモはもちろん、2位のauと比べても、端末・コンテンツサービス・3Gインフラなどで水を空けられていたのは事実だろう。しかし今回の秋冬商戦向け新端末・新サービスでは、その差を一気に縮めてきた。ドコモやauを追い越すには至っていないが、その追い上げのスピードには正直舌を巻いた。

 ドコモとauに比べて見劣る部分を減らし、Yahoo!のリソースを使うことで効果的かつ効率的にコンテンツ・サービスの強化を実現している。一方、端末ラインアップは、全体を見れば「とにかく数を集めた」ような統一感のなさを感じる部分もあるが、デザインやコンセプトの方向性として「薄さ」や「カラーバリエーション」重視を訴求するなど、現在のトレンドはしっかりと押さえている。

 ボーダフォンからソフトバンク体制への本格移行から、まだ半年足らずだ。この短い期間に、ボーダフォン体制下で広がった他社との距離を大幅に詰めてしまった。キャッチアップが中心とはいえ、このスピード感の変化は注目である。

むしろ慎重さが求められるエリア拡大

 むろん、ソフトバンク体制下の施策すべてが万全なわけではない。ソフトバンクは、意志決定の速さと実行力においてボーダフォン時代と比べものにならないスピード感を身につけたが、それがすべての分野で有効とは限らない。

 例えば3Gのインフラ整備の面では、ソフトバンク側がいくらスピード感を上げたくても、地権者や周辺住民の説得という時間のかかる作業を経なければならない。もし仮に、強引な手法で基地局の増設を急げば、地元住民からの反発は避けられず、基地局建設反対運動が活発化すればその悪影響は他キャリアまで巻き込んでしまう。地元の説得に熱心なドコモでさえ、過去に地域住民から基地局建設での反発を受けてきているのだ。基地局の建設における地権者・地域住民とのコンセンサス作りは「時間をかけなければいけない」部分である。

 また、基地局の建設ができたとしても、しっかりとエリアの調整をしなければ通信品質が安定しない。災害に強く、障害が発生しにくいネットワーク作りも重要だろう。

 3Gインフラの整備はスピード感を上げるには限界があり、むしろ地道さを失ってはならない部分だ。カタログ上のエリア拡大や基地局設置数のアピールにこだわるのではなく、地域住民とユーザーが納得する形で3Gインフラの整備を進めなければならない。エリア拡大に関しては、“大人の慎重さ”が重要だ。

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