ついにドコモの正面に立ったau神尾寿の時事日想

» 2006年08月30日 09時40分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 8月28日、KDDIが秋冬モデル12機種と同時に8つの新サービスを発表した(8月28日の記事参照)。詳しくは各種ニュース記事に譲るが、今回のauの布陣を一言で評せば、「まるでドコモのような」という表現が適しているだろう。

 その傾向が顕著なのが、8種の新サービスである(8月29日の記事参照)。これまでのauは、秋冬商戦向けの発表において「他社にない目新しいサービス」にフォーカスしてきた。先進性・新規性のある“大粒”がきらりと光る印象が強かったのだ。

 しかし、今回の8種の新サービスは違う。その中身は、従来からあるサービスのリファインと他社サービスのキャッチアップが中心である。これまでのように注目を集める大粒はない。

 これまでのauであれば、EV-DO Rev.AやBCMCSといった技術的な先進性(8月22日の記事参照)を際立たせるサービスを2〜3個に絞り込んで投入してきただろう。例えば「EZニュースフラッシュ」「au My Page」は、ネットサービスとの連携・融合において、さらに踏み込める余地があったと筆者は考えている。

 だが、そういった先進性・新規性を一分野に集中する手法は、イメージ作りやブランディングでは貢献するが、市場競争で必ずしも有利に働くとは限らない。着うた/着うたフルのようにヒットすれば強い追い風が吹くが、市場ニーズに合致しなかった時のリスクが大きい。また市場への訴求に時間もかかる。この時期にauが、新サービスで"小粒を連ねる"手法を取ったのは、それだけ販売現場での競争を重視したからだろう。特にあのauが、他キャリアのキャッチアップをここまで徹底したところに、市場シェア奪取の強い意気込みを感じる。

売れる端末・売りやすい端末を揃える

 端末ラインアップも、従来のauに比べると、「そつなくまとまっている」印象だ。機能や使いやすさにおける細やかなこだわり、W43Hを筆頭にデザインでの洗練はあるが、各モデルのコンセプトやデザインの個性は従来よりも抑えられている。ラインアップすべてが折りたたみ型で、ストレート型やスライド型、またau初参入で注目されたシャープがサイクロイド液晶を投入しなかった点も、「個性より売りやすさ重視」が表れた結果と言えるだろう。

 また、機能的に必要十分なものを取り入れながらも、夏モデルに引き続き「コスト削減」を重視している印象も強い。それは、Rev.AやBCMCS対応機種数の少なさ、今後の必須機能といえるおサイフケータイ(モバイルFeliCa)が全機種搭載でないこと、Bluetooth搭載機が12機種中で1モデルもないこと、などに端的に表れている。端末の販売価格は現段階で不明だが、auは夏モデルに続いて今回も、安売りをしやすいように端末のコスト削減を徹底している。

 MNPを前に、マスユーザー向けのモデルを集中投入し、販売現場で「売りやすい端末」を取りそろえることは戦略としては正しい。だが筆者の私見としては、物足りなさを禁じ得なかったのも事実だ。まるでセダンしかおいていない自動車ディーラーを訪れたような気持ちであった。ディーラーを訪れたら、クーペやオープンカー、SUVなど、多種多様なラインアップを見たいと思うのは筆者だけだろうか。

 auは今回、売れる端末・売りやすい端末を取り揃えたが、唯一の弱点があるとすれば、ラインアップ全体のバリエーション感が希薄なことである。他社が多種多様で、それぞれが魅力的な粒揃いの端末をラインアップしてきたら、この分野では思わぬ苦戦を強いられるかもしれない。

ドコモの正面に立ったau

 振り返れば、これまでのauは巧みにドコモとの正面決戦を避けてきた。サービスと端末ラインアップの両面で独自性を重視し、ブランディングやターゲット層の設定でも、ドコモとは違う戦略を採り続けた。それはドコモの規模と販売力の前では、多少の独自性や先進性による優位など吹き飛ぶことがわかっていたからだろう。実際、1999年に当時のJ-フォンがドコモに正面から挑むマーケティングを行い、その後に手痛い反撃を受けている。

 しかし2001年以降から着手した端末とサービスの進化と改善、ドコモとは違うブランド構築の結果、auはついにドコモに挑戦する権利を手に入れた。auのサービス・端末ラインアップが、かつてのドコモに似た布陣なのは、ドコモのシェア獲得に本気だからだ。

 ついにドコモの正面に立ったau。その結果、auが名実ともに「2強」としてドコモに比肩するキャリアになれるか。MNP開始後の半年が、勝負どころになる。

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