「ムーバよりつながるFOMA」への取り組み――NTTドコモに聞くInterview: (1/3 ページ)

» 2006年07月25日 20時09分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 「ムーバはどこでもつながる」――1990年代、ドコモが培った信頼と実績が、皮肉なことに現在FOMAを苦しめている。「ムーバに比べてFOMAはつながらない」という評価は、常にFOMAにつきまとってきた。ことエリアに関して、FOMAの最大のライバルはauやボーダフォンではなく、できのいい兄であるムーバだったのだ。

 しかし、その状況は変わる。7月12日、NTTドコモは「FOMAネットワークの現状と今後の展開」という記者説明会を開催。2006年をムーバからFOMAへのマイグレーションのピークとした上で、徹底した現在のエリア状況と今後の拡大計画について詳細にわたって解説した(7月12日の記事参照)。ドコモが、これほど詳しくFOMAのエリアについて言及するのは、過去になかったことだ。

 FOMAのエリア拡大はどこまで進んだのか。そして、ムーバ以上にユーザーの信頼を勝ち得ることができるのか。今日の時事日想は特別編として、NTTドコモ副社長ネットワーク本部長の石川國雄氏の単独インタビューをお届けする。

NTTドコモ副社長の石川國雄氏

FOMAは「切れにくく」なったか

 ドコモでは現在、FOMAエリアの拡充を急ピッチで行っており、「9月末までに広さと深さで、ムーバ相当以上を達成する」(石川氏)ことを目指している。これにより、スポット的な場所も含めて圏外エリアは大幅に減少する見込みだ。“つながらない”という課題は解消されてきている。

 一方、過去のFOMAが指摘されてきたもう1つの課題が、ムーバに比べて通話中に切れやすい点である。いわゆる通話品質の課題であるが、この点も改善されたのであろうか。

 「品質向上でやらなければならないのが、既存の基地局でカバー範囲を調整するチューニングです。これを毎月、(ドコモ中央管内で)200〜300局ほど行っています」(石川氏)

 基地局エリアのチューニングは地道な作業である。言うまでもないが基地局の発する電波は目に見えず、周辺の地形や建物の影響を受ける。設計段階で想定したとおりにエリアをカバーするとは限らない。基地局の設置時はもちろん、その後も継続的なチューニングが必要だ。

 「基地局のチューニングをしても電波の強度が足りない場所には、小型基地局やルーラルタイプ(光張り出し局)の基地局を設置してエリアを補完しています」(石川氏)

photo 基地局の種類にはさまざまなものがある
photo 小型の光張り出し基地局は、PHS基地局を設置している電柱で共用している物も多い

 この小型基地局やルーラルタイプの基地局は、電波が足りない場所だけでなく、各基地局の通信容量が足りず局所的な輻輳でつながらない・切れやすい状況にも対応できる。特に効果が現れたのが、パケット料金定額制「パケホーダイ」対策だという。

 「パケホーダイ導入当初は、渋谷や新宿など繁華街のトラフィック(通信利用量)が急増すると考えて対策を取りました。しかしふたを開けてみたら、住宅街の方がトラフィックが急増した。そこで小型基地局やルーラルタイプを設置し、(その地域の)通信容量を増やしています」(石川氏)

 この通信容量の拡大で一役買っているのが、ドコモのPHS基地局インフラである。ドコモはすでにPHS事業からの撤退を決めているが、PHS用の基地局インフラは当初から小型基地局によるマイクロセル型を前提に構築されている。住宅街も含めて、用地確保ができているのもポイントだ。FOMAのルーラルタイプ基地局は小型で、電柱などPHS用に確保した設備に共用化できる。今後のエリア密度や通信品質の向上を考える上で、ドコモがPHSから受け継いだマイクロセル型の基地局インフラと、そこに設置可能なFOMA基地局を持つことは見逃せない点だろう。

 「エリアのチューニングはキャリアにとって永遠の営みになると考えています。例えば、新しい建物が建つだとか、道路の遮音壁ができたという事で、周辺のエリア状況ががらりと変わる。こういったエリア状況の変化にいち早く気づき、我々に指摘していただけるのがお客様です。お客様の声に耳を傾けて、エリアをしっかりと構築・維持することがキャリアの務めだと考えています」(石川氏)

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