WiMAX+無線LANでユビキタス社会実現の一翼を担う──YOZANInterview(1/2 ページ)

» 2006年07月14日 23時59分 公開
[園部修,ITmedia]

 2005年12月25日、日本で初めてWiMAXを利用した商用サービスを開始したYOZAN(2005年12月15日の記事参照)。まずは関東地域のみでのスタートとなったが、ワイヤレスブロードバンド通信の歴史に、大きな足跡を残した。WiMAXサービスの立ち上げから約半年が経過した今、同社のWiMAX事業はどのように進んでいるのだろうか。またYOZANは、今後ワイヤレスブロードバンド事業をどう展開していくのか。事業推進室商品企画部長兼営業本部統轄の丸岡豊一氏に聞いた。

Photo 事業推進室商品企画部長兼営業本部統轄の丸岡豊一氏

WiMAXの基幹網をベースに無線LANのネットワークを構築

Photo WiMAXと無線LANによるブロードバンド接続サービスの概要

 YOZANは2002年に東京通信ネットワーク(TTnet)から譲り受けたPHS事業を2006年6月30日に終了し、事業の軸足を無線LANサービス「BitStand」へと転換した。このBitStandのバックホール(基幹網)として、WiMAXを利用している。WiMAXのネットワークを直接利用できる「WiMAXダイレクト」というサービスも法人向けに提供しているが、現在の主流はあくまでも無線LANのサービスだという。WiMAXサービスを提供するのではなく、無線LANサービスを展開することにしたのには理由がある。

 「現在、Wi-Fiに準拠した無線LANデバイスは非常に広く普及しています。やはり使ってくださるお客様がいないことにはビジネスにならないので、顧客のニーズに応えられるサービスを提供することが重要です。無線LANサービスは、ワールドワイドで見ても今後主流になるサービスだと見ています。次に来る技術がWiMAXだとしても、無線LANがなくなってすべてがWiMAXに切り替わるわけではありません。移行するとしてもそれは徐々に進むはずです。ですから、今は(対応端末などの)受け皿がないWiMAXのサービスを展開するのではなく、無線LANサービスを提供するための基幹網としてWiMAXを活用しています」(丸岡氏)

 WiMAXを無線LANの基幹網として活用する。これが現在YOZANが展開している無線LANサービスの最大の特徴だ。このWiMAXと無線LANの組み合わせは、ネットワークの展開が非常に低コストでできるという利点があるという。

 一般的な無線LANのホットスポットは、光やADSLなどの回線を引いて作るため、1つ1つのホットスポット毎にそれなりの初期導入コストと回線の維持費がかかる。しかしWiMAXを用いて地域を面でカバーしていけば、基地局に光ファイバーなどの回線を引くだけで、エリア内に無線LAN子局が複数設置可能だ。必要な有線の回線が削減できるため、コストが抑えられる。

 「通常のホットスポットで、例えばアクセスポイントを3つ作ろうとすると、3つ分の回線が必要になります。しかしWiMAXのバックホールがある我々の場合、WiMAX基地局のエリア内であれば、基地局のための回線が1つあれば、あとは子局をいくつ設置しても子局の機器の分しかコストがかからないわけです。WiMAXのエリア内であれば、物理的に回線を引くのが難しい場所へのアクセスポイントの設置も可能ですし、イベント期間中などの短い間だけネットワーク接続を利用したいといったニーズにも応えやすい」(丸岡氏)

 さらに、WiMAXを活用する方法は、YOZANが無線LANネットワークを構築するうえでも重要だと丸岡氏は言う。無線LANのホットスポットを提供するサービスはすでに複数社が展開しており、今までと同じ方法でやっていては先行する他社に勝つことができない。しかしWiMAXを用いれば、低コストで無線LANのインフラが作れる。同社には都内だけでもPHSの基地局が7万カ所近くあり、1から交渉を行って基地局を設置する必要がないことも、他社より有利な点だ。

モバイルWiMAXなどへの対応も視野に入れて基地局を展開

 まずはWiMAXを基幹網として設置し、無線LANの子局を展開してネットワークを構築するというこの方法には、近い将来WiMAXが普及した暁に、すぐに対応できるというメリットもある。WiMAXは、携帯電話キャリアを含め複数の事業者が2.5GHz帯での免許取得を目指しており、数年後には対応機器も広く入手できるといわれている。

 ただ、ここでいうWiMAXとはモバイルWiMAXのことであり、YOZANが展開している固定版WiMAXとは少し事情が異なる。さらにYOZANのWiMAX網は、WiMAXフォーラムで推奨されている2.5GHz/3.5GHz/5.8GHzのいずれでもなく、4.9GHz帯を用いており(2005年12月15日の記事参照)、やや特殊な部分がある。この点はどう考えているのか。

 「4.9GHz以外の周波数への対応は、最初から想定しています」と丸岡氏。基地局の周波数切り替えは比較的容易に行える設計になっているという。また、将来的に固定ではなく移動体でワイヤレスブロードバンドアクセスを利用したいという需要は当然出てくると見ており、モバイルWiMAXについても「現在非常に興味を持っている」と話す。

 「2.5GHz帯の割り当てには、可能であれば我々もぜひ手を挙げたいと考えています。仮に2.5GHz帯で免許が取得できれば、バックホールのWiMAXのネットワークをそのまま活用可能ですから、すぐにでも対応できです。また、(周波数を)取得できなかったとしても、その帯域を取得した事業者と、MVNOライクに協業をさせていただくことも考えられます」(丸岡氏)

 現在は、WiMAXに対応した機器がないため、まずは広く普及しており、これからも主流であり続けると考えられる無線LANを展開する。その上で、WiMAXが立ち上がれば、徐々にそちらに移行するという作戦だ。これであれば、仮にWiMAXが思ったように普及しなくても、無線LANのアクセスポイントを広域に展開することで十分にビジネスとして成り立つ。

 「Wi-Fiの無線LANがあり、その先にWiMAXがあるわけですが、そのどちらかがいっぺんになくなるということは、今の技術トレンドではあり得ません。少なくとも一定の期間は併存しますし、どちらかが衰退して行くにしても、移行する期間は必ずある。そういう意味では、我々のビジネスの可能性を広く取るために“WiMAX+無線LAN”は優れたバックエンドモデルだと認識しています」(丸岡氏)

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