番号ポータビリティの影響はコンテンツビジネスにもある──モバイル・コンテンツ・フォーラム(2/2 ページ)

» 2006年07月12日 22時26分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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モバイルコンテンツ関連市場と番号ポータビリティ

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 今年の秋、いよいよ番号ポータビリティが始まる。携帯電話キャリアの変更をしたときに電話番号が変わらないというこの制度は、キャリア同士の競争促進と、それに付随して端末メーカーに強い影響を及ぼすと考えられている。では、モバイルコンテンツ関連市場には何らかの影響を与えるのだろうか。

 「各キャリアのシェアの数字的な変化は、それほどないと思っています。大きくても10%止まりでしょう。しかし、表面上の数字に表れないユーザーの流出入は、(シェア変動の)2倍〜3倍はあると考えています」(岸原氏)

 MNPは利用の手数料や、各キャリアの乗り換え優遇策がまだ発表されていないため、どれくらいのユーザーが利用するのか、現時点でははっきりしていない。しかし、たとえMNPの利用率が10%前後でも、約900万人のユーザーが動くことになる。コンテンツ市場として注目すべきは、この時に起きる「解約」だという。

 「キャリアを変更するとき、これまで利用していたキャリアで契約していたコンテンツはすべて解約されることになります。ここで影響を受けるのが“スリープ会員”と呼ばれる層です」(岸原氏)

 スリープ会員とは月額固定制の契約をしておきながら、実際はコンテンツを利用しておらず、解約しないままでいるユーザーのことである。このスリープ会員が、「着メロを筆頭に、各コンテンツサービスの中には相当数が存在します」と岸原氏は指摘する。

 「このスリープ会員の多くはコンテンツ契約をしたことを忘れていたりするのですが、キャリアを変更をすれば(コンテンツ契約も)必ず解約されます。MNPが始まれば、このスリープ会員は確実に減少し、その分の売り上げは減るでしょう」(岸原氏)

 各コンテンツプロバイダーでは、自社のコンテンツサービスの3キャリア展開を進めている。そのためユーザーの満足感が高く、実際の利用率が高ければ、キャリア変更後も移行先で再度コンテンツを利用してもらえる可能性は高い。

 だが、スリープ会員はそもそも「コンテンツを使っておらず、解約するのを忘れている」だけなので、キャリア変更に伴って強制解約されれば、移行先キャリアでの再度の契約は見込めない。MNP利用率にもよるが、スリープ会員分の売り上げが目減りするのは確実だ。

 とはいえ「スリープ会員の減少はコンテンツ市場にとって悪いことではない」と岸原氏は強調する。「スリープ会員は時間をかけて蓄積されるので、例えばユーザーを500万人囲い込んでいるような老舗のコンテンツサービスは、その中に相当数のスリープ会員も含んでいます。ですから、新たなコンテンツプロバイダーが挑戦しても不利なんです。しかしMNPでスリープ会員が減ってこの構造がリセットされれば、コンテンツ市場における変化を促せる可能性があります」

 またスリープ会員の減少と、MNPによる価格競争は、コンテンツ市場全体の活性化にも繋がるという。

 「ユーザーが携帯電話料金として支払える絶対額は決まっていますから、スリープ会員の解消やMNPによる携帯電話料金の値下がり効果が起きれば、(削減された料金分を使って)新しいコンテンツ利用が促せます。コンテンツプロバイダーのサービスやマーケティングにおける取り組みが結果に結びつきやすい環境になるのではないでしょうか」(岸原氏)

市場のマトリクスが変わってきている

 日本は世界的に見てもモバイルコンテンツビジネスが急伸・拡大した市場であり、その傾向は現在も継続している。その後押しをしているのが、3Gへの移行の速さとパケット料金定額制の広がりだ。

 「これまではまず“繋がる”ことがメインのニーズだったわけですが、これからは“定額”があたりまえになり、その上でどのようなコンテンツやサービスを展開するかが、今までよりも重要になってきています。また放送との連携や、扱えるコンテンツの大容量化、MVNOなど新たなサービスモデルも生まれて、これまでのように決められたマトリクスの中でのビジネスではなくなってきます。市場の枠組み自体が変わってきていますから、コンテンツ関連市場もこれまでの延長線上での成長だけでなく、まったく新しいモデルも描けるようになってくるでしょう」(岸原氏)

 MNPはキャリア間にあるユーザー移動の壁を低くして、市場の固定化・硬直化を防ごうというのがそもそもの狙いだ。その波紋はコンテンツ関連市場においてはスリープ会員の解消という形で及ぶが、市場全体の活性化・拡大に繋がる可能性がある。モバイルコンテンツ業界はスピードの速さとフットワークのよさが強みなだけに、2006年の市場変化をバネにして、さらなる発展と拡大が期待できそうだ。

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