PiTaPaはなぜ“ポストペイ方式”なのか――スルッとKANSAIに聞く(前編)Interview: (1/3 ページ)

» 2006年04月10日 11時49分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 JR東日本「Suica」(特集参照)があまりに有名なため、非接触IC「FeliCa」を使った公共交通サービスというと“プリペイド方式”というイメージが強い。同じJRグループのJR西日本「ICOCA」(3月24日の記事参照)や、伊予鉄道「い〜カード」(2005年8月23日の記事参照)、長崎バス協会「長崎スマートカード」(2005年12月13日の記事参照)などもプリペイド(前払い)方式である。

 そのような中で、公共交通向けIC乗車券システムとしては珍しい“ポストペイ(後払い)方式”を取るのが、スルッとKANSAIが運営する「PiTaPa」だ。現在、京阪神を中心に、私鉄・バス会社9社が対応している。

 プリペイド型IC乗車券が大半である中で、PiTaPaはなぜ「ポストペイ方式」を採用したのか。スルッとKANSAI PiTaPaビジネスサークルコアリーダー執行役員の松田圭史氏に、PiTaPaの背景とビジネスモデル、電子マネーやパーク&ライドへの取り組み、異業種連携などについて聞いた。

photo スルッとKANSAI PiTaPaビジネスサークルコアリーダー執行役員の松田圭史氏

1社単独ではできないサービスをする

 スルッとKANSAIは1996年3月に、磁気式プリペイドカードによる私鉄・バス共通乗車券システムを企画・検討するための協議会として誕生した。東京圏でいうと、地下鉄・私鉄が共同で利用する「パスネット」をイメージするとわかりやすいだろう。スルッとKANSAI加盟社局は鉄道22社局(バス兼業含む)、バス会社29社局の51社局。関西圏が中心だが、岡山や静岡など他地域にも広がり始めている。

 「スルッとKANSAI協議会は磁気式プリペイドカードの企画・検討もしましたが、設立目的はそれ(磁気式プリペイドカードの導入検討)だけではありません。協議会に参加する私鉄・バス会社が共同で、お客様の利便性向上、部材の共同購入による経費節減、共同PRなどを通して、各参加社局が収益向上をしていきましょう、というところにあります」(松田氏)

 スルッとKANSAI協議会は私鉄・バス会社がサービス改善を一体的に図るための「参加企業が集まる場の提供」(松田氏)と位置付けられている。同協会の取り組みは乗車券システムに留まらないのが特徴である。

 例えば、スルッとKANSAI参加社局の共同フリーペーパー「遊びマップ」では、共同PRとして各企業が負担する発行コストを抑えたほか、記事で紹介する沿線タウン情報を参加社局全体に広げて、「各社局の事業エリアを越えた旅客の流動を促す事に成功した」(松田氏)という。

 他にも、企画乗車券として従来では取り込むのが難しかった旅行者向けのサービスにも取り組んだ。それがスルッとKANSAIの43社局で乗り放題になる「3Dayチケット」や「2Dayチケット」である。これは国内旅行者はもちろん、海外からの旅行者も取り込んで年3万枚を超えるヒット作になった。

 「スルッとKANSAIは(共同乗車券システムの構築だけでなく)様々な共同企画を立ち上げて、1社単独ではできないサービス改善を実現してきました。これが我々の成功体験になっています」(松田氏)

 また地道な取り組みとしては、レールや枕木、蛍光灯、切符の紙など部材の共同購入にも力を入れており、こちらでも2割〜5割のコスト削減を実現した。

 2000年には「株式会社スルッとKANSAI」が誕生した。これまでの企画・検討する場は従来からのスルッとKANSAI協議会が残り、そこで企画された内容をスピーディーに事業化する「両輪を持つ体制」(松田氏)ができあがった。

 スルッとKANSAIは設立当初から、私鉄・バス会社がお互いの経営状況を鑑みながら、力を合わせてサービス改善とコスト削減を総合的に行う仕組みになっていた。これが後のPiTaPa誕生における伏線になる。

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