着実に復活するボーダフォン。敵は「時間」と「リソース」 神尾寿の時事日想

» 2006年01月19日 11時31分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 ボーダフォンの復活は今度こそ本物だ。少なくとも、確かな一歩は踏み出した。

 昨日の新製品発表会はそれを強く感じさせられるものだった(1月18日の記事参照)。ボーダフォンは3Gを中心にした春モデル4機種と、新サービス「Vodafone Address Book」(1月18日の記事参照)、そして「Vodafone live! CAST」(1月18日の記事参照)を発表した。

 筆者が特に感心したのが、ボーダフォンが今回、奇をてらわず、堅実に端末とサービスを向上させたことである。また、昨年のLove定額に続く「料金値下げ」を安易に打ち出さなかった点も好感が持てる。“サプライズ”を狙わず、正攻法だが着実な進歩を選んだ。これはよい傾向である。

 また、ボーダフォンがかつての"J-フォンらしさ"の片鱗を取り戻しつつある、とも感じた。それは今回、投入された新サービスに現れている。

 例えば、「Vodafone live! CAST」(1月18日の記事参照)は、現在の携帯電話の利用環境とユーザーニーズを鑑みて、あえて「当面は映像コンテンツは扱わない」(太田洋・ボーダフォンプロダクト・サービス開発本部長)方針だ。大容量コンテンツの深夜プッシュ配信ということで、auの「EZチャンネル」を想起する読者もいるだろうが、主目的はプル型コンテンツの利用が少ないユーザーに対して「コンテンツ利用の裾野を広げたい」(太田氏)という点にある。ボーダフォンが狙うところは、ドコモの「iチャンネル」(2005年8月2日の記事参照)に近い。

 「Vodafone Address Book」(1月18日の記事参照)も、携帯電話のアドレス帳が重要になる中で、まっとうな魅力になるサービスだ。同様のアドレス帳 自動バックアップのサービスとしてはauの「EZメモリーポケット」があり、今となっては新規性はない。だが、ボーダフォンではバックアップの重要性を鑑みて、今後発売される3G端末では「Vodafone Address Bookを標準搭載にする。おそらくSIMカードで複数端末の使い分けをした時にも、対応機種ならば(Vodafone Address Bookで)アドレス帳の同期ができるようになる」(太田氏)。

 かつて、J-フォンの人気を支えた“らしさ”の中にあったのが、ユーザーの立場に立脚した「使いやすく」「独自性」のあるサービスだ。現時点のボーダフォンは、そのすべてを取り戻せてはいないが、ユーザーをおもんばかる姿勢は戻ってきている。

「時間とリソース」という厳しい現実

 しかし誤解を恐れずに言えば、今回、発表された新端末と新サービスでは、質・量ともにドコモとauを追い抜くことは不可能だ。

 まず端末ラインアップでは、タマ数が少ない。今年の春商戦のキーワードは「物量」であり、ドコモとauは3Gだけでボーダフォンの倍近い新端末を投入してくる。昨年末に発売したモデルと合わせて分厚い陣容を敷いてくることになる。しかも、両社は3G端末開発に手慣れたこともあり、どれも粒ぞろいだ。ボーダフォンの3G端末のクオリティも向上してきてはいるが、今回の新端末を加えても陣容の薄さは否めない。Love定額の助けを借りても、店頭での苦しい戦いは続くだろう。

 サービス面でも、ボーダフォンはまだ“追いつく”段階であり、Love定額以外の明確な差別化ポイントが打ち出せずにいる。今回、奇抜な新サービスを投入せず、ユーザーに受け入れられやすいものに留めた事は賢明だとは思うが、ドコモとauに抗する訴求力不足は避けられないのも事実だ。

 ボーダフォンに圧倒的に足りないのは、時間とリソースだ。

 例えば、新サービスのVodafone Address Bookは今回904Tにしか対応していない。この点について太田氏は、「端末メーカーの体力、リソースの問題で(新端末すべての対応は)間に合わなかった」と悔しさをにじませた。一部の新端末においても、春商戦に投入するかはスケジュールを睨んだギリギリの判断だったという。

 時の神クロノスは誰に対しても冷酷だ。MNPという天王山に向けて、残された時間は限られており、各キャリアは手持ちのリソースすべてをぶつけてくる。一時の混乱で出遅れたボーダフォンに、自分のペースでゲームを進める余裕はない。

 ボーダフォンの春モデルは善戦すれば成功だろう。だが、次のモデルはドコモとauを出し抜く“何か”が必要になる。ボーダフォンの次の一手を期待を持って見守りたい。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.