2006年、MNPという通過点を越えて 神尾寿の時事日想:

» 2006年01月06日 11時56分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 振り返れば2005年は、携帯電話業界にとって「種まきの年」だったと思う。昨年、特集したおサイフケータイは言うに及ばず、端末ビジネス、コンテンツビジネス、法人向けサービス、そして放送や固定網との連携など、様々な分野で新たな取り組みが始まった。詳しくは斎藤編集長との年末対談に譲るが、今後の携帯電話ビジネスは「根幹の変化と裾野の広がり」が重要になる。

 2006年を前にすると、MNPは大きなイベントだ(11月22日の記事参照)。業界関係者はもちろん、今後、マスコミで大きく取り上げられることにより、一般ユーザーにとっても関心を寄せる話題になると予想される。特にユーザーが注目するのは「料金の低廉化」であり、キャリアはこれに応えざるを得ないだろう。しかし、筆者は料金低廉化よりも、各キャリアが今後投入するサービスや端末での新提案、顧客満足度向上のための施策、そして既存サービスの利用率向上への取り組みの方に期待している。他の産業もそうであるように、価格競争だけでは持続性のある成長が維持できない。料金低廉化とサービスや付加価値の向上がバランスよく行われる必要があるだろう。

「連携」と「ユーザビリティ」の重要性

 今年は様々なサービスや端末が投入されると思うが、その中でキーワードになりそうなのが、「連携」と「ユーザビリティ」である。

 まず、連携の分野としては、昨年から続くおサイフケータイの「リアル連携」、そして地デジワンセグによる「通信と放送の連携」、今年度後半から動きが見え始めそうな「固定網との連携」や「WiFiやWiMAX網との連携」などがある。携帯電話は、デジタルカメラや音楽プレーヤーなど様々な機能を内包してきたが、今後は“連携”も成長領域になる。昨年から動き出したこれらの連携サービスやビジネスを、「いかに多くのユーザーが使うものにできるか」が今年のテーマの1つだ。

 もうひとつの「ユーザビリティ」は、以前から存在するテーマであるが、今年はさらに重要性が増すだろう。周知の通り、新たな端末機能やコンテンツサービスは利用率向上の点で課題を抱えており、このままだと「技術やサービスは進歩しているのに、ビジネス全体のコモディティ化が進む」ことになりかねない。昨年までの段階ですでに、一般ユーザー層は「携帯電話のニーズが行き過ぎである」と感じる兆候が見えている。

 端末機能やサービスを多くの人に使ってもらうためには、ユーザビリティを向上させるUIやサービス、普及プログラムが不可欠だ。今年は様々な端末機能や新サービス、連携ビジネスが投入されるだろうが、どれほど画期的なサービスや付加価値も、一般ユーザーの多くが認めなければ訴求力に繋がらない。先に述べた料金低廉化ニーズとのバランスの上でも、新たな提案を利用に結びつけるユーザビリティの向上が重要になる。

 2006年、MNPによって多くの人の目が携帯電話に集まる。ユーザーのキャリア変更や端末買い換えが進むだろう。その中で携帯電話ビジネス全体が今後も成長と拡大をする“弾み”をつけてほしいと思う。MNPは重要ではあるが、1つの通過点に過ぎない。

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