ETC利用率50%突破。顕在化した効果に学ぶべきもの神尾寿の時事日想

» 2005年10月13日 16時16分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 10月12日、国土交通省が最新のETC利用状況について発表した。平成17年9月30日から10月6日までの調査で、ETCの週平均利用率が全国で50.2%に達したという。中でも首都高速では60.2%の高い利用率になった。前年同期比と比べて2.3倍の増加と、着実にETC利用率が向上している。

 さらに注目すべきは、料金所における渋滞緩和効果だ。特に他路線からの乗り入れ料金所が多い首都高速では、その効果が顕著だ。

 「平成17年9月の首都高速道路本線料金所の渋滞は、平成14年9月と比較して9割以上減少しています。ETCを利用される方はもちろんノンストップ通行で便利に、ETCを利用されない方も渋滞から解放され、料金所の通過が便利になっています」(国土交通省プレスリリース)

 ETCの普及促進には、ハイウェイカードの廃止など強権的な施策も採られたが、一方でETC専用の割引サービスを充実させるなど、国交省と各公団は「アメとムチ」を上手に使い分けてきた。さらにETC利用率が30%を越えたあたりから、「料金所で(他人が)ETCでスムーズに通過する場面を多くのドライバーが見かけるようになり、これが大きなCM効果につながった」(首都高速道路 広報)という。乗り入れ料金所が多く、“効果”が見えやすい首都高速での利用率が高いのは、こういった背景もあるのだろう。

おサイフケータイも見習うべきところがある

 クルマ向けのETCの事例を、安直に携帯電話の世界に当てはめることはできない。しかし、示唆的であるという点では、おサイフケータイも見習うべき点はあるだろう。

 例えば、「アメとムチ」の戦略だ。現在、おサイフケータイはさまざまなキャンペーンが張られている。しかし、これは“アメだけ与える”状況であり、常態化すればユーザーへの心理的効果は薄くなる。各事業者の持ち出しコストにも限界があるだろう。おサイフケータイとFeliCa型カードを導入し、業務効率改善を図るならば、キャンペーンでアメを与える一方で、高コストで効率の悪い旧来の手段を段階的に廃止するなど、ユーザーの強い反発を招かない範囲で「ムチを使う」ことも考える必要があるのではないか。新しい方法と古い方法のどちらも使えれば、保守的な多くの一般層は古い方を使い続けるからだ。

 また、おサイフケータイ利用率を早期に向上させ、「他人が利用している場面に遭遇する」機会を作ることも重要だ。これを効果的に演出するには、やはり専用レジや専用ゲートの設置が望ましい(6月17日の記事参照)。ETCにおいても、平成15年度後半からETC専用レーンの常設が積極的に行われ、これが「利用シーン/メリットを見せる演出」に大きな効果を果たした。専用レジ/専用ゲートの設置は、現金利用など旧来の手段を使うユーザーにとってはデメリットになるが、これも「アメとムチ」を考えれば、むしろ効果的なおサイフケータイ利用促進策となるだろう。過去の事例を鑑みても、FeliCaカード型のソリューションを安価に用意しておけば、ユーザーの強い反発は受けにくいはずだ。

 普及率・利用率ともに大きく向上したETCは今、さまざまな応用サービスやアプリケーションが生まれる段階になっている。例えば、ETC専用でSA/PAと接続する小規模料金所「スマートIC」は社会実験の反応も上々で、特に「物流業者やビジネスユーザーの反応がよく、『いつ本格展開するのか』という声もいただいた」(日本道路公団:現 東日本高速道路 幹部)という。

 おサイフケータイも、リアル店舗や公共交通での利用率が50%を越えれば、今までの決済手段にない新たな付加価値やサービスが考えられるようになる。おサイフケータイとFeliCaカードを導入する事業者は、まずは利用率50%以上の数値目標を掲げるといいだろう。50%を越えて、さらに70%を目指す段階になれば、おサイフケータイならではの新ビジネスが現実のものになるはずだ。

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