プッシュ・ツー・トーク、日本ではどこまで普及するか神尾寿の時事日想:

» 2005年08月18日 08時35分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 8月17日、一部の全国紙が「ドコモが今秋にもプッシュ・ツー・トーク(PTT)を開始」と報じた(8月17日の記事参照)。詳しくは関連記事に譲るが、PTTはIPベースの音声メッセージサービスで、その使い方から「トランシーバーに似たサービス」と紹介されている(2004年2月27日の記事参照)。米国では以前から人気が高く、海外では大きな広まりを見せている機能だ。

 PTTが注目されるポイントは大きく2つある。

 1つは低料金だ。PTTは音声メッセージを半二重で、IPベースでやりとりするため、ネットワークにかかる負荷が従来の音声通話よりも小さい。そのためキャリアは、従来の音声通話よりも低リスクで「音声定額」ライクなサービスが実現できる。米国のPTTの例でも、利用料は定額もしくは準定額のプランが多い。

 もうひとつは音声アプリケーションとしての多用途性だ。PTTでは音声メッセージの同報機能やプレゼンス情報の提供、ボイスメールなど様々な付加機能が用意されている。基本はデータ通信なので、従来の音声通話よりも機能拡大の幅が広いのだ。また一方で、半二重という特性から、従来型の通話サービスを代替する事もない。PTTで「音声定額」をしても、従来型の音声通話ARPUに与える影響は軽微だ。トータルで音声サービスのARPUを向上させる可能性が高い点にも期待されている。

PTTは誰が使う?

 PTTのターゲット層について、ドコモの中村社長は「法人ユーザー」を第1に挙げている。これは米国で、PTTがフィールドワーカーを抱える企業から普及してきたからだろう。PTTはグループ単位で利用するのが基本なので、その点でも企業の方が最初から利用を活性化させやすい。

 一方で、今、日本の業界関係者の間で議論されているのが、「PTTはコンシューマー層にも受け入れられるか」だ。北米と異なり、日本のコンシューマー市場ではiモードメールを筆頭とする携帯メールが広く普及している。日常的なメッセージのやりとりに、“今さら音声”を使うだろうか。

 筆者は昨年、PTTをテーマに、年代別にユーザーグループインタビューを何度か主催したが、その際にも顕著な反応が見られた。30代や40代のユーザーは、電子メールのように「安く気軽に使える音声メッセージサービス」に強い期待感とニーズを示したが、10代と20代前半のユーザーはあまり関心を示さなかったのだ。特に学生を中心としたグループインタビューでは、「メールがあるからいらない」という反応が多かった。

 音声サービスのニーズが高い法人層とは異なり、コンシューマー層では若年層を中心にメール利用が浸透している。この中でPTTが“棲み分け”をするには、携帯メールとは異なる「楽しさ」や「利便性」の創出をするか、メールと融合するしかない。日本のPTTが法人ユーザーに限定されたものになるか、音声通話とメールに続く「第3のコミュニケーションツール」として普及するかは、この点にかかっていると言えそうだ。

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