携帯eコマースへの期待──Amazonモバイル(後編)神尾寿の時事日想

» 2005年05月18日 10時01分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 2004年11月、携帯電話向けサイトを「Amazonモバイル」として本格稼働させた同社だが(2004年11月22日の記事参照)、その結果、顧客の利用傾向としてPC向けサイトと類似する点、異なる点が見えてきたという。

 「まず、はっきりとわかったのは、PC向けと同じく『ブロードバンド』がeコマースサービス利用に大きく影響していることです。CDMA 1x WINやFOMAなど各キャリアの上位モデルの利用者ほど、アクセス意欲と購買意欲が高いという結果になっています」(アマゾンジャパン 竹村詠美マーケティングシニアマネージャー)

マーケティングシニアマネージャーの竹村詠美氏(右)と、Amazonモバイルプロダクトマネージャーの平山景子氏(左)

クレジットカードを持たないユーザーへリーチ

 ユーザー層に関しては、今のところPC向けと大きく変わっていないが、若年層への拡大傾向が見え始めているという。

 「Amazonモバイルへのリニューアル後、大きく伸びたのが10代のユーザー層でした。この層に関しては携帯電話が『入り口』になっています。一方、20代、30代、40代以上は、PCとモバイルの相乗効果で利用が伸びている傾向が見られます」(平山景子Amazonモバイルプロダクトマネージャー)

 モバイルで獲得した“新規顧客”に関しては、決済方法でも従来のユーザー層とは異なる傾向が現れている。

 「(Amazonモバイルが獲得した)新規顧客に関しては圧倒的に代引きや着払いの利用が多いですね。これは10代はもちろんですが、その他の世代でも、クレジットカード非所有層、ノンPC層にモバイル版がリーチしているからでしょう」(竹村シニアマネージャー)

 周知の通り、Amazonでは「1クリック購入」を代表にクレジットカード利用を前提とするサービスが充実していた。その中で手数料を払ってでも代引き着払いを選ぶお客様が多いというAmazonモバイルの現状に、「正直、これほどまでとは、と驚いている」(竹村シニアマネージャー)という。

 「予想以上にクレジットカード非所有層や利用しない層が大きいというのが、モバイル版をやってみての率直な感想です。一方でこの層がモバイル版での購買に抵抗感が少ない。(eコマース市場としての)ポテンシャルは高いですね。我々は外資なので、クレジットカード利用に関する日本の温度差に(本国も)驚いているところです」(平山プロダクトマネージャー)

 また、フリーター層や若年失業の拡大で、クレジットカードを「持たざる層」が増加しているのも事実だ。今のところAmazonモバイルでは採用していないが、キャリアの代金代行徴収サービスの物販適用など、クレジットカード非所有者向けの電子決済手段が今後拡充されれば、携帯電話はeコマースの裾野を広げられる可能性がありそうだ。

リニューアルで売上2.4倍。タッチポイントの拡大に期待

 大々的にリニューアルし、日本のモバイル市場の特性にフォーカスしたAmazonモバイル。その効果はどの程度あらわれたのだろうか。

 「Amazonモバイルへのリニューアル後、(モバイル版の)売り上げは約3ヶ月で2.4倍に拡大しています。我々はモバイル版の大きな目的として、これまでリーチできなかったノンPC層の取り込みと、既存ユーザーの(Amazon)アクセス増を狙ったタッチポイントの拡大を掲げていましたが、そのどちらも効果をあげています」(竹村シニアマネージャー)

 また、モバイル版では「おもちゃ&ホビー」の売り上げの伸びが他品目より高いなど、面白い傾向も見えているという。

 「これは子育て中の主婦など、ノンPC層であったり、PC所有層であっても『パソコンの前にいる時間がない』人たちにリーチできているみたいですね。実際、知育玩具のアクセスが多いですから。他にもパケット料金定額制によって、ニッチタイムの暇つぶしにAmazonにアクセスしてもらえるなど、タッチポイントは確実に増加しています」(平山プロダクトマネージャー)

 またAmazonは、ユーザーによるカスタマーレビューを重視しており、これは携帯電話版からも読めるようになっている。これは強力な“口コミ”ツールであり、その評価はコンテンツとして読んでも楽しい。

 約8600万ユーザーが所有し、多くの人が常に手元に置くケータイ。最も身近な情報端末へのeコマースの進出は、ショッピングへのタッチポイントを増やし、消費者が気軽に"商品情報"に触れられる環境を作る。PC向けeコマースの最大手Amazonが本気になり、実際に効果を上げている事からもわかるとおり、「モバイルeコマース」の潜在性と可能性は、eコマース事業者はもちろん、リアル店舗を持つ既存の小売り事業者が考える以上に大きいのではないだろうか。

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