“ステータスを遊ぶ”とは、どういう意味か。そこに、日本とスイスの伝統的な時計技術を融合した、新しい腕時計の価値観があった。「カンパノラ メカニカルコレクション」に込めた意図を深堀りする。
他で代用できるから、不要なのでは?──そう言われたこともある。それは価値観の違いであり、人によって違ことと、あえて反論はしない。
愛着がわく。喜びを感じる。ただ、なぜかは分からない。
腕時計。その本質は何か。そういえば、なぜ腕にはめるのか。
──そう問いかける人の感性に訴える日本の腕時計ブランドがある。
今回は、初の機械式ムーブメントを採用した「カンパノラ メカニカルコレクション」の世界に迫ろう。
カンパノラブランドを大切に育て、今回の新シリーズ「メカニカルコレクション」の商品企画を主導したシチズン時計 シチズンブランド事業本部商品企画部の吉川茂樹課長(以下、吉川氏)と同シチズンブランド事業部デザイン部の大場晴也チーフデザインマネージャー(以下、大場氏)にロングインタビュー。カンパノラブランドが目指し、表現したいこと、そして、「宙空の美」と呼ぶ独特な世界感のデザインの細部にどんな意図が込められているのかを振り返ってもらった。
── 「カンパノラ」にいよいよ機械式ムーブメントを搭載した「メカニカルコレクション」が登場します。改めて、カンパノラというブランド名の意図について教えてください。
吉川氏 南イタリアに「ノラ」という町があります。紀元5世紀のある日、この町に教会の鐘の音が響き渡りました。それが人々に時を知らせる目的で史上初めて鳴らされた鐘の音「カンパノラベル」です。「時」と「人」の関わり方にロマンを感じていただきたい。そんな願いから「カンパノラ」ブランドが誕生しました。
昔から人は星の動きなどから時を知ることを理解してきました。広大な宇宙を時計に取り込む──「宙空の美」という概念。それがカンパノラが示すコンセプトです。
── そもそも、「カンパノラ」はどんな時計なのでしょう。コンセプトに掲げる「ステータスを遊ぶ」──。“遊ぶ”とは、どういうことなのでしょう。
吉川氏 カンパノラは、時刻を知るだけでなく、「時を愉しむ」「日常を愉しむ」、そして「個性を愉しむ」ことを意識していただくための時計です。
時を知る。それ以外に、時計自身が魅了させる価値観を持ち、お客様のスタイルも一緒に表現していきたい。そういう時計でありたいと思っています。
ブランド名の由来から、カンパノラとヨーロッパは深くつながっています。今回のメカニカルコレクションは、スイス製ムーブメントを用い、日本で組み立てる手法としました。日本とスイスの国交が始まって150年目。この大切な節目に、日本とスイスの「技」と「感性」が出会ったことも表現しています。
── カンパノラは「宙叢雲(そらのむらくも)」「紺瑠璃(こんるり)」など、圧倒的な存在感のある名称を用いたモデルも深く印象に残っています。改めてどんなシリーズがあったか、カンパノラの過去を振り返っていただけますか。
大場氏 「宙叢雲」などは、漆モデルに付けたものですね。漆技法に昔の色の呼び方を使いました。見た瞬間に引き込まれるあのカラーリングは現在も好評です。
吉川氏 カンパノラの第1弾は2000年発売「コンプリケーションモデル」です。こちらはパーぺチュアルカレンダーやミニッツリピーターなどの複雑機構を搭載しています。さらに日本の伝統工芸である「漆」などに代表される、調和をこのモデルで表現しました。
続いて2001年に「コスモサイン」を発売しました。こちらは全天の星座をリアルタイムに文字板上に時刻とともに移りゆく天体の動きと連動する本格的な天文時計です。星座版と同じように星や空が動きます。
2006年発売の「エコ・ドライブ」は、シチズン時計の先進技術である光発電エコ・ドライブを搭載し、技術と美を融合させたモデルです。先ほど話に出た「宙叢雲」などはこの派生モデルとして後にラインアップに加えています。
── 新作「メカニカルコレクション」は、機構もデザインもこれまでとはまた違う、新たなイメージを受けますね。
吉川氏 はい。カンパノラ第4のコレクション。それが「メカニカルコレクション」です。「ステータスを遊ぶ」「宙空の美」を表現するブランドテーマは不変ですが、カンパノラとしては初めてスイス製の機械式ムーブメントを使い、日本で組み立てる工法のモデルに仕立てました。
── そういえば、機械式カンパノラは初ですね。なぜ、機械式ムーブメントを採用することにしたのでしょう。
吉川氏 まず、「日常使いに優れ、存在感が高まる世界感」を追求したためです。具体的には3つのテーマを込めました。
中三針、ビッグデイト表示、パワーリザーブ、42ミリ径のやや小ぶりな日本人の腕に合うサイズ、これを時計としての定番仕様に据え、カンパノラの世界感「宙空の美」を価値として付加することで、永くおつきあいいただける時計にすることを目指しました。
ムーブメントは、スイス ラ・ジュー・ペレの機械式ムーブメントを採用しました。
── ラ・ジュー・ペレ。そういえばシチズン時計は、2012年にスイスのプロサーホールディングを買収し、子会社としました。当時、2008年に傘下に収めた「ブローバ」ブランドなどへ機械式ムーブメントを供給する考えとの報道もありましたね。
吉川氏 はい。プロサーホールディングは、機械式ムーブメントや部品の製造、さらにアーノルド&サンなどの高級腕時計ブランドも擁する業界屈指のスイスの企業です。ムーブメントメーカーのラ・ジュー・ペレも傘下にあります。
ラ・ジュー・ペレは1985年創業の機械式ムーブメント製造会社で、数多くのハイクラスブランド──スイスブランドの多くにムーブメントを供給している革新的なメーカーです。
シチズン時計には、自社製ムーブメントを採用する高級腕時計ブランド「ザ・シチズン」もありますが、こちらとはまた違う「カンパノラの世界感」を示すブランド展開をしてきたいと考えています。
── 改めて、スイス製ムーブメントを採用したのはなぜですか?
吉川氏 カンパノラが示したい「時計を愉しむ」が根底にあります。スイス時計の歴史の中で培われた伝統的な技術と機能をカンパノラで表現し、新たな価値の創造を始めたいという思いがあります。ラ・ジュー・ペレのムーブメントは「スイスの伝統芸に敬意を表し、採用した」ととらえていただくのもよいと思います。
もちろん、日本製時計のハイテク技術としてシチズン自慢の光発電エコ・ドライブの方向もあります。一方で、スイスとの国交樹立150周年と、スイスの会社がシチズンの身内になったこと、そしてなによりヨーロッパに起源を持つ「人と時の関係」、そして「カンパノラの鐘」──。カンパノラにヨーロッパのムーブメントを搭載するのも、ブランドの由来に迫るごく自然な成り立ちです。カンパノラへの採用にもピッタリ合うと解釈しました。
大場氏 なにより、このカンパノラで「心のゆとり」や「娯楽性」を表現したいと思いました。
腕時計なので、ある程度の精度は絶対必要です。ただ、カンパノラは精度だけではなく、「つくり」や「身に付ける喜び」といった、お客様の感性を刺激することも表現したかったのです。「趣味性」「手作り感」とか、「手間がかかっていることが分かる」など。そうなると、ハイテクや近代的なイメージより、「昔の」や「職人技」といったイメージが沸いてきます。
そういう部分と、スイス製ムーブメントのイメージが実に合うわけです。こういう「何かにとらわれない」ゆとりの演出にこだわることで、腕時計の新たな価値観を提供したいと思っています。
── 日本とスイスの「伝統を融合した」ということですね。この「メカニカルコレクション」、立体的で深みのある、複雑な文字板デザインに……うっとり見入ってしまいます。
大場氏 今回の文字板には、いろいろなパターン、模様を彫り込んでいまして、それぞれに意味を込めました。見れば見るほど、知れば知るほど引き込まれていくと思いますよ。
カンパノラの「宙空の美」を表現するため、文字板から風防の間に空間をとり、立体的な造形でアレンジしています。宇宙の膨張そのものが「時」というものではないだろうか──そんな考え方でカンパノラの世界を描きました。
もう1つ、私たちの先祖が培った日本人のモノ作りの概念も意識して取り入れました。例えば、庭に砂の模様で「世界や宇宙」「独特のわび・さび」を表現する枯山水、盆栽で「天地人」を表したりなど。そういう精神世界が日本には古来からありますよね。
文字板には日本伝統の「和紙」「砂紋」「和傘」のモチーフを取り入れました。文字板の中央に日本古来の製法で紙質や柄のすばらしさを伝える和紙の目を、その周囲に水に見立てて自然の美を表現する砂紋を、外周に伝統文化と日本の美意識、さらに魔除けや権威の象徴となる和傘のパターンを表現しています。
そして6時位置のパワーインジケータには、ヨーロッパ時計に敬意を表し、ヨーロッパ時計の伝統的な彫刻「ギョーシェ模様」を施しました。
この4つの表現には、1000分の1ミリ単位の精度で作られた、極めて細かい電気鋳造の技術を使っています。日本の高度な技術が裏で支えつつ、日本とヨーロッパの伝統を融合し、質感と世界感を演出するのが狙いです。
日本のモノ作りには「細かさと繊細さ」がキーワードにあると思います。例えば“天空のリング”のネジは、それをわずかにパッと浮かせています。天空の「惑星の軌道」を表現するためです。そして、ちょっと動かすと光がきらっと周囲を走ります。「天空の惑星の動き」を意識しました。お客様には、どの位置から見てもカンパノラの世界を感じてもらえると思います。
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提供:シチズン時計株式会社
アイティメディア営業企画/制作:Business Media 誠 編集部/掲載内容有効期限:2014年8月31日
カンパノラ初の機械式ムーブメント搭載モデル「メカニカルコレクション」が登場。スイスの伝統技術に培われた機械式ムーブメントと、日本の美意識が息づくデザインを融合をコンセプトに、ブランドテーマ「ステータスを遊ぶ」を演出する。
シチズン時計は、高級ウオッチブランド「カンパノラ」から、光発電エコ・ドライブを搭載した新モデル「宙叢雲(そらのむらくも)」と「黒橡(くろつるばみ)」を9月27日に発売する。価格は39万9000円。
バーゼルワールド2012で発表されたカンパノラの新作「塵地螺鈿(ちりじらでん)」が8月中旬に発売。限定300本で、価格は34万6500円。
シチズン時計は、バーゼル・ワールドで発表した「CAMPANOLA」の新モデル「デュアルタイム」を8月から発売する。「黒麗」(くろうるし)は限定100本のみ。