メタルケースの電波ソーラーは何が難しい?――2004年のOCEANUSを振り返るOCEANUS10周年(2/5 ページ)

» 2014年03月27日 08時00分 公開
[吉村哲樹,Business Media 誠]
初代OCEANUSのの文字盤は透明なプラスチックだった

 「ここで初めて、ケースの構造が電波の受信感度に大きく影響することが分かりました。そこで急きょ、ケースの構造を見直すことにしました。その後に続くモデルでも、適宜ケースの構造を見直しながら電波の受信感度アップを図っていきました」

 さらには、ソーラー時計としての性能にも気を配る必要がある。ソーラーセルを使った光発電の技術自体は、当時既にかなり成熟していた。問題は、時計側で消費する電力の削減だった。それも、時計の機能面だけではなく、「見た目」を良くする上でも消費電力の削減が重要な鍵を握っていたのだ。

 「ソーラーセルはプラスチック製の文字盤を通して光を受けて発電しますが、文字盤の質感やデザイン性を上げるためには、どうしても文字盤の光の透過率を下げざるを得ません。そうなるとソーラーセルの受光量と発電量も減ってしまいますから、どうしても時計全体の電力消費量を抑える必要が出てくるのです」

「質感アップと発電量ダウンのジレンマ」を解消するための消費電力削減の取り組み

 実は、2004年に発売されたOCEANUS初代モデル「OCW-500」の文字盤は透明のプラスチックで、透過率は85%。いってみれば、ソーラーセルに透明な膜をかぶせただけの文字盤だったわけだ。しかし、これでは文字盤の質感を上げることはできない。ここにおいて、「文字盤の質感アップ → 光の透過率ダウン → 発電量ダウン → 消費電力節約の必要性」という、技術開発の1つの命題が確立されたわけだ。

 加えて、2007年に発売された「OCW-S1000」では、質感の向上とともに、日本のユーザーに合った「適正サイズ」と、カシオならではの「スペック」の3つの要素を、それぞれ高いレベルで並立させることを狙った。ここで言う適正サイズとは、「ケースの薄型化」とほぼ同義といっていい。それまでのモデルは、ケースがかなり厚かったのだ。

 「厚みを薄くするための最大のポイントは、二次電池でした。それまでのモデルのモジュールでは、ムーブメントと電池を重ねて配置していたので、どうしても厚みが出てしまっていました。それを、電池を小型化することで、ムーブメントと並行に配置できるようにしました。これによって、大幅なケース薄型化を達成できました」

「OCW-S1000」の部品一覧
OCW-S1000のプラスチック文字版は透過率40%で質感が向上した

タフムーブメントで磁力の影響を排除

タフムーブメントの針位置検出のギア構造

 翌2008年には、タフムーブメントという新たな機構が搭載される(参考記事)。これはG-SHOCKにも搭載されている技術で、どちらかといえば耐衝撃性に極めて優れる点がよく知られているが、実はOCEANUSのようなアナログ時計においては、磁力の影響を排除する上で極めて有効なのだという。

 「クオーツのアナログ時計の針は磁石を使って駆動しているので、磁場が強い場所では磁力の影響を受けて針の位置がずれてしまうんです。しかし、電波ソーラー時計は『とにかく正確!』を売りにしていましたから、そうした狂いも許したくない。そこで、タフソーラーでは自動的に針位置を検出して、正常な位置に補正する機能を新たに搭載しました」

 さらにこの頃には、文字盤の透過率は30%にまで低下。その分、文字盤のデザインは大幅に質感を増し、つや消し調の表面加工を施したり、金属調のパーツを複数配置できるまでになった。この段階で、当初目指していた文字盤の質感アップの取り組みは、ほぼ目標を達成したという。もちろんその背景には、受光量(=発電量)が落ちてもすべての機能がきちんと稼働できるよう、消費電力削減のたゆまぬ努力があったのだ。

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