第60鉄 お魚市場とメンチカツと水戸藩の歴史とモコモコの丘――ひたちなか海浜鉄道杉山淳一の +R Style(4/6 ページ)

» 2013年12月12日 07時55分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

深い旨味のビッグメンチカツとケハ600形

 実はお目当ての店がある。地元の人々のおすすめ、金来軒。中華料理屋風の名前だが、メンチカツが名物なのだという。そいつぁいいねぇ……というわけで、早足でお店に直行した。店内は冷房が効いている。テーブル席と座敷があって、座敷で足を伸ばした。

 さて、出てきたメンチカツ。かなり大きい。そして評判通りの旨さ。意外にもこの店のメンチカツは肉汁が染み出さない。箸で切った途端に肉汁がじゅわっと出てくるタイプではなく、旨味がひき肉の中に保たれている。そのせいか、とんかつのようにあらかじめカットされている。口に含むと肉の旨味、玉ねぎの甘味がふわっと広がった。

おさかなの街のメンチカツ。うま〜い!

 幸せな気分で那珂湊駅に戻る。そうだ、猫のおさむ……はもういいけど、昭和の気動車たちを見物したい。ふと足元を見ると「ケハ公開中」の文字。ケハとは日本初のステンレス車体のディーゼルカー、ケハ600形だ。1960年製で1992年に廃車。車体だけ残されて倉庫になっていたけれど、「おらが湊鉄道応援団」が整備した。しかし駅構内にあるため、いつでも見物できるわけではない。今日は幸運だ。案内係の方に声をかけて、道順を教わった。今日は東京の大学生サークルが車内で映像作品を公開しているという。ケハ600と昭和の気動車を間近で見られた上に、短編映画を数本楽しむ。贅沢な食休みとなった。

ひたちなか海浜鉄道の名物、旧型気動車たち
ケハ600形。日本初のステンレス車体のディーゼルーカーだ

終点からバスで国営公園へ

 ひたちなか海浜鉄道湊線の旅を続けよう。列車はさっきと同じ3710形。私が街を散歩している間に、このディーゼルカーは終点の阿字ヶ浦へ行って、勝田に戻り、また那珂湊にやってきたわけだ。お疲れ様!

 那珂湊駅で降りるお客さんと入れ違いで車内へ。お客さんは私だけで、貸し切り状態である。ロングシートに足を伸ばして、全方向の車窓を眺める。お客さんがいないなんて経営状態が心配だが、まあ平日の昼間だし、どこだってこんな感じかな……。私のようなぶらり旅のお客さんにも便利なダイヤに感謝。

貸切状態で阿字ヶ浦へ

 那珂湊駅から終点の阿字ヶ浦へ。那珂湊を発車した3710形は進路を左へ90度変える。地図上では海岸に沿って北東に進むことになるが、海は見えない。住宅地を通り抜け、平磯駅からは畑の真ん中を走って行く。視界が開けて、青空を大きく感じる。いいねぇ。そんな景色のアクセントは、進行方向右手の遠くにあるパラボラアンテナと白い建物だ。情報通信研究機構の平磯太陽観測センターとのこと。黒点の数を数えたり、フレアが発生すると盛り上がったりするんだろうか。

ふたたび車窓は青と緑の世界、遠くに白いパラボラアンテナ。あの建物の向こうが海だ

 車窓に建物が増えてくると磯崎駅。そして終点の阿字ヶ浦駅に到着だ。実は私、この駅は2度めの訪問になる。初回は2003年の10月で、当時この路線は茨城交通が運行していた。あの時は運行本数も少なくて、乗ってきた列車で引き返してしまい、ちょっと心残りだった(参照リンク)。今日はもう少し先へ行きたい。

 ここから北へ約1キロメートル行くと、国営ひたち海浜公園がある。国営の公園とは、どんなところだろう? うまい具合に、この駅から路線バスが接続している。小さな青い低床バスに乗って約10分。車窓からやっと海が見えた。

終点の阿字ヶ浦駅。ここから先へ延伸する構想もある
バスの車窓から海水浴場が見えた

 この海水浴場は、湊線が建設された理由のひとつ。明治時代末期、当地出身の大谷新介が常磐線の勝田駅建設を願い出た。しかし当時、常磐線を運行していた日本鉄道は「港町と勝田までの鉄道を作ってくれるなら駅を作ってもいいよ」と条件を出した。何もないところに駅を作ってもメリットがないから、お客さんと貨物を集めてね、ということだ。そこで生まれた鉄道が湊線というわけ。勝田から那珂湊を結ぶだけではなく、その先まで建設した理由が、夏の海水浴や行楽客の輸送だった。

 海を過ぎてバスは左折、右手に森が現れる。これが国営ひたち海浜公園だ。終点の西口ゲートはもっと先のようで、バスは広い道を数分走った。かなり広い。ここは戦前は陸軍水戸飛行場で、戦後は在日米軍が使用し、1973年に日本に返還されて公園として整備されたそうだ。敷地面積は350ヘクタール。なんと、東京ディズニーリゾートの3.5倍、東京ドームが75個も入ってしまうという広さ。あまりにも敷地が広すぎて、実はまだ半分までしか整備されていないという。

国営ひたち海浜公園に到着。さて、どこへ行こうか(クリックすると拡大)

 ひたちなか海浜鉄道には延伸構想があって、現在の終点である阿字ヶ浦駅から、この国営ひたち海浜公園までを整備するという。2013年の2月27日にひたちなか市長が定例記者会見で意向を示し、2013年度の予算に1000万円の調査費を計上したとのこと。阿字ヶ浦駅から公園の南端までは数百メートル。実現の可能性は高そうだ。未開発エリアの整備とセットで、海沿いに延伸したらいいかもしれない。

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