金上駅を出てしばらく走ると市街地は終わり。中根駅付近の風景は畑が目立つ。那珂川から引いた用水のおかげで、農業に適した地域のようだ。でも人家が少ないということは、鉄道のお客さんも少ない。ローカル鉄道は厳しいな、と思ったら、また住宅が増えてきた。那珂湊駅に到着だ。
那珂湊駅周辺は那珂川河口の港町。ひたちなか市になる前の那珂湊市の中心部だ。江戸時代、水戸藩の重要な拠点として整備されたところで、水戸光圀の別荘もあったという。ひたちなか海浜鉄道にとっても那珂湊駅は重要拠点。本社機能と車両基地がある。懐かしい昭和時代の車両も停まっていて興味深いけれど、ちょうどお昼時になったから、まずは街を歩きつつ、ご飯を食べに行こう。
那珂湊駅の改札の外に「おらが湊鐵道応援団」のスタッフがいて、訪れた人々を迎えてくれた。駅長猫のおさむ君の所在を聞いてみた。
「さっき見かけたんだけど、探してきましょう」
「いやいや、そこまでしなくてもいいですよ。なにしろ相手は猫ですから」
やっぱり猫を楽しみにいらっしゃる方も多いようだ。私は手作りの案内図をもらって街に出た。まずは駅前を横切る道路を左へまっすぐ進む。那珂湊というからには港を見よう。
道路の突き当たりが漁港エリアで、この「おさかな市場」は茨城県の有名な観光スポット。水揚げされたばかりの魚や伊勢海老がたくさん並ぶ。ほとんどの建物が2階建てで、地上が海産物売り場、2階が海を展望するレストランとなっている。魚好きなら嬉しくてたまらないところだろうなあ。
「お兄さん、どう、おいしい魚でお昼、食べてって」
「すみません、魚、苦手なので……」
「えっ、じゃあ、何しに来たの?」
……うーん、私はここで何をしたいんだろう?
どの店からの呼びかけにも応じずに市場エリアを通過して海沿いを歩くと、大きな橋が見えた。那珂川河口を渡る海門橋だ。対岸は大洗である。あの橋の真ん中まで行けば良い景色かもしれないと、渡ってみれば予想通りのワイドビュー。街と水平線が望める。この橋は展望台を兼ねているようで、歩道にキラキラドリームベルという鐘がある。
「大切な人と太平洋に向かい、夢や希望を願って3回ベルを鳴らしましょう」
鳴らしてみようか? でも、夢や希望って急に言われてもな。そもそも今日も一人旅。大切な人がいなかった。退散!
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