転換点となったG-SHOCK、カシオはスマートウオッチを作るのか――増田裕一さんG-SHOCK 30TH INTERVIEW(4/5 ページ)

» 2013年11月27日 18時15分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

これからG-SHOCKはどうなる?

パイロット仕様のG-SHOCK SKYCOCKPITシリーズは、耐衝撃、耐遠心重力、耐振動の3つの重力加速度に耐える「TRIPLE G RESIST」が最大の特徴。写真は「GW-A1100」をベースモデルに30周年記念モデルとして作られた「Thirty Stars(サーティー・スターズ)」

――G-SHOCKの現在とこれからについて、話をうかがいます。最近は、アナログモデルだとSKYCOCKPITシリーズに力を入れていらっしゃいますよね。あとデジタルモデルだとBluetooth連動のG-SHOCK、GBシリーズ(参照記事)なのかなと思いますが、いかがですか?

増田: Bluetoothもなかなか難しいんですけどね。これからはG-SHOCK以外にも、Bluetooth(連動機能)は広げていこうと思っています。G-SHOCKはBluetoothのスタートの役目だったのかなと。G-SHOCKの中だけでその技術を留めるのではなく、もっと広くやっていきたいと思っています。Bluetoothというきっかけで、G-SHOCKがモバイル方面に行くかと聞かれたら、答えはNOなんですよ。それは、新しいスタイルを作るための一つの材料ではあります。でもBluetoothはG-SHOCKの機能としてはワンオブゼムだと考えるようになりました。

 やはりG-SHOCKは、究極の状況の中に時計を置いて、そこでいろんな必要な機能や性能を考えていくという(作り方をしたい)。単純に性能や機能を入れていくのではなくて、デザインクリエーションという方針でやっていきたいんです。Bluetoothも、必要であればそこに入れます。例えば、何らかの状況で時計が操作できない。だからその状況に入る前に操作しておく、スマートフォンでセットしておけば、全部できてしまう……そういう考え方をすれば、Bluetoothを使うということにつながりが出てくる。今後も、こういう考え方がG-SHOCKを開発するベースになっていくはずです。この路線を追求していこうと。

スマートフォンと連動するBluetooth対応G-SHOCK、GBシリーズは現在第二世代。メールや電話の着信をG-SHOCKで知ったり、音楽プレーヤーを操作したり、見失ったスマートフォンを探したりといったことが行える。第二世代になってカラーモデルも増えた

カシオが考える「スマートウオッチ」とは?

――ちょっと質問の角度を変えます。1年かけてこのG-SHOCKインタビューシリーズを書いてきた中で、「カシオはスマートウオッチを作らないのだろうか?」という質問や感想を何回かいただきました。でも私の目から見ると、「Bluetooth対応のG-SHOCKが、ある意味カシオ版のスマートウオッチなのでは?」と思えるんです。実際にはどうなのでしょう。増田さんが考える「スマートウオッチ」って何ですか? 今後、スマートウオッチをこういう風に作っていきたい、といった思いはありますか?

増田: 最近サムスン電子が出した「GALAXY Gear」とか、ソニーの「SmartWatch」とか、みんなあれをスマートウオッチと呼んでいますね。でも僕は、あれはスマートウオッチではなく「リストデバイス」だと思っているんです。でも、われわれが作っているのは「リストウオッチ」です。まずここが大きく違う。

サムスン電子「GALAXY Gear」
ソニーモバイルコミュニケーションズ「SmartWatch 2 SW2」

 いまの時点で「スマートウオッチって何?」と聞いたら、世間の人がイメージするのは(リストウオッチではなく)リストデバイスの方ですよね。われわれが作っているリストウオッチとはだいぶ違う。

リストウオッチとリストデバイスはどう違う?

――リストウオッチとリストデバイスは、どう違うのでしょうか?

増田: 一番大きな違いは、リストウオッチは一年中、いつでも、常に着けていられるということです。逆に、リストデバイスというのはある目的を持って着けるものなんですね。だから充電して使う。充電してでも使いたい目的があるから使うわけです。ナイキのFuelBand(フューエルバンド)ってご存じですか?

――はい、腕輪みたいな形の活動量計(参考記事)ですよね。

ナイキ「NIKE+ FuelBand」と「Nike+ FuelBand SE」を装着したところ

増田: あれも自分の活動量を計りたいという目的があって使うものでしょ。そして、データを同期する時に、同時に充電する。あれを普段ずーっとしているかというとそうではない。おそらくAppleの「iWatch」もそういう、何らかの目的があって使うもの、リストデバイスになると思うんです。そうすると明らかに目的が違う。

 リストウオッチとリストデバイス、世の中では食い合うと言われますが、食い合わないんです。競争するんです。リストデバイスがどんどん出てきても、リストウオッチはリストウオッチできちんとやっていけばいい。リストデバイスがきっかけで、目的をもって何かを腕に着ける、という人が増えて、買う人も出てくればそれはいいことです。普段(リストデバイスを)ずっと着けているかというと、たぶんそうじゃない。毎日充電しないといけないですからね。その人の目的に応じて使うものだと思います。

 一方で、腕時計という普段着けているファッショナブルなものが、通信機能を持って他のものとつながるようになってきている。それがカシオがやっているBluetooth(対応G-SHOCK)です。われわれのコンセプトは、あくまでもベースがリストウオッチなんですね。絶対に崩せないコンセプトとして、まずお客さんが煩わしいと思うような充電はさせないこと。あくまでもファッショナブルであること。そこは崩せないところです。

――では、現状の「リストデバイス=スマートウオッチ」であれば、カシオではスマートウオッチを作らない?

増田: 会社全体の答えとしては、僕からはそう断言しづらいところがありますが……でも今われわれがやっている時計事業としては、Bluetooth(対応)と呼んで出している商品についてはあくまでコンセプトはリストウオッチです。リストデバイスではない。

 あともう一つ、リストウオッチの重要なポイントとして「人の目に触れるものだから、(身の回りの人と)同じモノを着けるのは抵抗があるはず」というのがあります。上着が同じとか、ネクタイが同じとか、嫌でしょう? GALAXY GearもSmart Watchも、そういう観点はないですよね。Appleが出すかもしれないiWatchもおそらくそうでしょう。

――身に着けるものは人とカブりたくない。確かにそうですね。

増田: そこまできちっとやっていかないとリストウオッチにはならないと思います。今、スマートウオッチという言葉はどちらにも取られるようになっていて、リストウオッチとリストデバイスが混同されて使われているけれど、僕の中では分けているわけです。世間に今出ている、スマートウオッチと呼ばれるものは、圧倒的にリストデバイスの考え方なんです。われわれはリストウオッチという考え方でやっているので、そこに大きな違いがあります。

――なるほど……リストデバイスで成功するのって、実は非常に難しいですよね。

GARMIN「ForeAthlete 910XTJ」。トライアスロン用に設計された、日本語版GPSマルチスポーツウオッチ

増田: ある目的があって使うもの、例えばGARMIN(ガーミン)はもともとGPSを出発点としているメーカーで、米国を中心に腕時計が売れているんですね。あれは中にGPS関連の機能がそろっている。ランナーが走った時に、スピードとか走った距離とか、いろいろな情報を見られる。スマートフォンにアプリを入れても同じ情報は見られるけど、本格的に走る人にはスマホを持つのは邪魔でしょう。そのためには充電してでも使いたいという目的があるから、マーケットを築いているわけです。

 今、リストデバイスで成功していると言えるのは、GARMIN、FuelBandと、あとは一部活動量計くらいのものですね。それ以外のところは鳴かず飛ばずですよ。GALAXY Gearはどうなるかな。モトローラも「MOTOACTIVE」(モトアクティブ、参照リンク)というのを出していたけど、撤退しましたよね。なかなか難しいところです。

――増田さんから見て、GARMINやFuelBandは、スマートウオッチの成功例と言えますか?

増田: GARMINはスマートウオッチと呼んでいないんじゃないでしょうか。スマートウオッチって、スマートフォンと通信して使うということですもんね。FuelBandも、僕の考えではリストデバイスです。GALAXY GearもソニーのSmartWatchもリストデバイス。ああいう、何らかの目的を持って使うものは、僕が見る限りはリストデバイスだろうと思いますよ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.