冒険心は錆つかない――ダイバーズウオッチに受け継がれるDNALONGINES HERITAGE COLLECTION

» 2013年08月26日 07時00分 公開
[篠田哲生,Business Media 誠]

著者プロフィール:篠田哲生(しのだ・てつお)

1975年生まれ。時計ライター。講談社『ホット ドッグ・プレス』を経て、フリーランスに。時計学校を修了した実践派で、時計専門誌からファッション誌、Webなど幅広い媒体で時計記事を執筆。高級時計からカジュアルウォッチまでを守備範囲とし、カジュアルウォッチの検索サイト『Gressive Off Style』のディレクションも担当。著書に『成功者はなぜウブロの時計に惹かれるのか。』(幻冬舎)がある。


 スイス屈指の名門時計メーカーであるロンジンは、1832年の創業以来積み重ねた過去の遺産(ヘリテージ)を引用し、「ヘリテージ コレクション」を作っている。彼らの歩みはスイス時計産業の歴史であり、時計進化の足跡を辿ることができる。今や夏の時計として定番化された「ダイバーズウオッチ」も、その誕生のきっかけに、ロンジンは深く関与していたのだった。

未知なる深海へと挑んだ冒険者と時計

 地球の表面は、その70%が水に覆われているという。海は生命の起源であり、さまざまな恵みをもたらしてくれる存在だ。しかし、まだまだ研究し尽くされない未知な部分が多く残っており、宇宙以上に神秘に包まれているという人もいる。“深海”は今なお人々の知的好奇心を掻き立てる対象なのだ。

 深海が未知である理由は、そこが過酷な環境であるからだ。光も届かない漆黒の闇、すべてを押しつぶす強烈な水圧、そして低温。すべてが人類にとっては過酷な環境のため、その全貌を明らかにすることができないのだ。

 人類が深海調査を本格化させるのは1940年代から。1943年に伝説のダイバーであるジャック・イブ・クストーが簡易潜水器「スクーバ」を考案し、タンクを背負って水中を自由に移動することが可能になってからだ。さらに1948年にはスイスの物理学者、冒険家であるオーギュスト・ピカールが「バチスカーフ」という深海潜水艇を考案している。

 奇しくもこの時代は、米ソの宇宙開発レースが始まっており、大国の威信を掛けたテクノロジー合戦が行われていた。そのとき欧州では、深海というもうひとつのフロンティアを目指してさまざまな研究開発が進んでいたのだ。

 数々の冒険をサポートしてきたロンジンはここでも活躍を見せる。1953年に作られた「バチスカーフ・トリエステ号」のミッションで、同船に使用する精密計時機器を提供しているのだ。このバチスカーフ・トリエステ号は3150メートルまで潜水することに成功し、人類史に大きな足跡を残すことになった。

 ロンジンのチャレンジスピリッツは、またもや未開の地へと足を踏み入れることに成功した。ロンジンではこの経験を生かし、1960年代から本格的なダイバーズウオッチの開発に着手する。深海探査の成功と簡易潜水を可能にする器具の充実によって、母なる海の謎が少しずつ解明され始めると同時に、ダイバーズウオッチの時代が始まるのだった。

受け継がれる冒険のDNA

longines 「ロンジン レジェンドダイバー」1960年代製モデルのデザインを引用し、ベゼルはインナー式を採用。クリスタルサファイア風防を使用しており、防水性能は30気圧を確保する。ストラップは耐水性に優れたブラックナイロン製。自動巻き、ステンレススチールケース、ケース径42ミリ。23万1000円

 ダイバーズウオッチに求められる能力とは、強い水圧にも負けないタフなケースと防水構造、そして薄暗い水中であっても時刻を判読できる優れた視認性であろう。ロンジンでは1960年代にダイバーズウオッチを製造しているが、それを現代に復刻させたのが「ロンジン レジェンドダイバー」である。

 ダイバーズウオッチの王道にのっとり、シンプルな表示と大きな針で視認性を確保している。しかし潜水経過時間を計測するためのベゼルを風防ガラス内に収める“インナーベゼル式”を採用しているため、全体的にシンプルな印象に仕上がっている。もしもインナーベゼル調整用の2時位置リューズを隠せば、ダイバーズウオッチには見えないだろう。それほどに洗練されたデザインだが、これも1960年代モデルから継続されている“ヘリテージ”なのだ。

 ロンジンのダイバーズウオッチの遺産を受け継ぐ「ロンジン レジェンドダイバー」は、現在の審美眼で見ても、まったく古臭さを感じない。それはロンジンのダイバーズウオッチが、厳密な規格の中で作られた潜水のための計器だから。ダイバーの命を預かる計器として実践的な目的で生まれた時計のため、すでにデザインも機構も完成しているのだ。

 今ではダイバーズウオッチは人気のスタイルとして、完全に市民権を得ている。しかしこの時計が生まれた背景には、まだ見ぬ深海を目指した学者たちの冒険心と、それをサポートした時計メーカーの努力が詰まっている。ロンジンの時計作りの情熱は、海よりも深い。だからこそ遺産として受け継ぐ価値がある。

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