──JALならではのもてなし、というのはありますか?
秋澤: 一つには、私たちは「和」のこころをとても大事にしています。呼ばれてから行くのではいけませんが、かといって押しつけがましいものになってもいけない。お客さまのお気持ちをさりげなく察して、おもてなしをする。説明がちょっと難しいのですが。ファーストクラスでコールボタンがあちこちから鳴る、というのは最悪です。かといって、用もないのにいちいち「何かご用は?」と聞かれるのも、自分なら嫌だなって思います。嬉しいのは、用があるときに、たまたまそばにいてくれること。ですが、お客さまにとっては「たまたま」でも、私たちにはそれが「たまたま」であってはいけない。そういう、和のこころがもつちょっとした間というか、タイミングというか。
──そのベースになるのは、コミュニケーション能力や観察力になるのでしょうか。
秋澤: 観察力といっても、じろじろ見ているわけではありませんよ(笑)。そこも和のこころというか、適切な距離感というのがとても大事になります。音などにも敏感になりますね。ギャレーにいて、キャビンから伝わってくるかすかな音に、私たちは反応します。毛布がこすれる音を聞いて「あ、どなたか起きられたみたいだな」って。
──JALのフライトを利用していると、確かに「和のもてなし」というのを感じますね。
秋澤: はい。サービスアイテムにもいろいろと「和」が取り込まれています。ワインリストに日本産のワインを加えたり、添えるチーズも国産のものをそろえてみたり。食事をお出しするときも、外国の人にはできない、日本人ならではの所作があります。配膳のときに、食器をポンとテーブルに置くのではなく、さりげない余韻をもたせる「手添え」という振る舞いも日本独特の文化です。そういうちょっとしたしぐさに、外国からお帰りのお客さまなどはとてもホッとされるという話をよく聞きました。
──この仕事をする上で、常に自分に言い聞かせていることは?
秋澤: まず、日々勉強だということ。乗務を終えて、ご飯を食べに行っても、つい「同じサービス業」として観察してしまいます(笑)。評判のいいレストランがあれば、休みの日に視察をかねて出かけてみたり。それと、一方的なサービスではお客さまの感動にはつながりません。「お客さま視点」を貫くこと、それも大切にしています。その結果、フライトを終えたあとでお客さまから「また秋澤さんとフライトをしたい」と言っていただけるのが一番うれしいですね。
──話を聞いていると、ファーストクラスの乗客は本当に大切にされているんだなあと実感しますね(笑)。
秋澤: そうですか(笑)。ですが、それはファーストクラスだからというわけではないですよ。会社によっては搭乗クラスで客室乗務員がお客さまをランクづけしているところもあるようですが、JALではサービスの内容は違えど、もてなすこころはファーストもビジネスもエコノミーもまったく変わりません。どのクラスにご搭乗されても、みなさん同じ大切なお客さまです。何かお困りのことがあれば、一人ひとりに同じ気持ちでこころから対応したい。そういう気持ちで全員が乗務しています。
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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