飛行中の機体の向きは、どう変える?秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(3/4 ページ)

» 2012年12月27日 08時00分 公開
[秋本俊二,Business Media 誠]

飛行中の機体の向を変えるには、どんな操作を?

 鳥の様子を観察してみると、上空で飛ぶ方向を変えるときには羽を大きく広げ、身体を左右どちらかに傾けながら小さく弧を描いて方向転換することが分かる。旅客機が飛行中に方向を変えるときの動作もまったく同じだ。上空で曲線を描いて向きを変えることを「旋回」というが、そのためにはコクピットでいくつかの操作をバランスよく行わなければならない。その手順を、具体的に見ていくと──。

 コクピットに入ると、操縦席の足もとに見えるのがラダーペダルだ。このペダルは垂直尾翼についているラダー(方向舵)を動かすためのもので、上空を飛行中に機体の向きを変えるときに使用する。左側のペダルを踏んでラダーを(進行方向に向かって)左に倒すと、旅客機の機首は左に。反対にラダーを右に振ると、機首も右に。こうして、まずは機体の向きをえる。

 しかしラダーペダルを操作するだけでは、機体を旋回させるまでには至らない。ラダー操作によって機首の向きは変わっても、機体全体が方向転換するまでには必要以上に時間がかかってしまう。そこでサポート役を果たすのが、主翼に装備されているエルロン(補助翼)である。操縦席の前に見える操縦桿(コントロールホイール)を操作すると、エルロンが作動する。エルロンは左右の主翼のうしろ縁に取り付けられている動翼で、動くのは上下方向。飛行中に右主翼のエルロンを下げると、反対側の左主翼のエルロンは自動的に上に向く。このとき、エルロンを下げた右主翼は揚力が増加して翼は上に持ち上げられ、一方のエルロンを上げた左主翼は揚力が減少して下に引っ張られる。その結果、機体は翼を下げた左側に傾き、空中をスライドするような形で移動していくのだ。

飛行機と空と旅 足もとのラダーペダルで方向舵を、操縦桿でエルロンを操作

 旅客機は、このラダーによる機首の方向転換とエルロンによる横滑り移動を組み合わせることで、左右に旋回する。機体を傾ける角度は「バンク角」と呼ばれ、バンク角を大きくとればとるほど、小回りな旋回になる。ただしバンク角を大きくし過ぎるのは、機体に荷重がかかって失速の原因にもなるので要注意だ。これが戦闘機なら、バンク角90度の垂直旋回や、それ以上のバンク角での背面飛行なども可能だが、旅客機ではそんな芸当はできない。旅客機も理論上はバンク角が60度以上になっても大丈夫な設計になっているものの、運航上の規定で、実際のフライトでは最大でも30度程度までのバンク角で旋回を行っている。

 旅客機が飛んでいく方向を変えるための装置としてもう一つ、水平尾翼にはエレベーター(昇降舵)と呼ばれる動翼を備えている。垂直尾翼のラダーは左右に振って機能させるのに対し、水平尾翼のエレベーターは上下に動かす。飛行中にエレベーターを上に向ければ機首は上がり、反対に下に向けると機首が下がる。つまり機体の上昇・下降をコントロールするのがエレベーターの役割である。

 以上、飛んでいる旅客機の向き(方向、高度)を変える仕組みについて解説した。おさらいすると、機体をバンクさせるためには操縦桿を傾けてエルロンを動かし、機首を上げて上昇するときはその操縦桿を引き起こしてエレベーターを作動、そして旋回のバランスをとるために足もとではラダーペダルを操作する。両手両足を使って旅客機をコントロールするパイロットの仕事は、知れば知るほど大変そうだ。主翼のエルロンと垂直尾翼のラダー、水平尾翼のエレベーターという3つの「舵」を自在に操作して鳥のように自由に空を飛ぶため、コクピットクルーたちは常に厳しい訓練を重ねている。

飛行機と空と旅 水平尾翼のエレベーターは上下に、垂直尾翼のラダーは左右に作動(撮影:チャーリィ古庄)

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