SASが開拓した北極航路と、北欧の自由気ままな休日秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(6/6 ページ)

» 2012年11月16日 08時00分 公開
[秋本俊二,Business Media 誠]
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世界が絶賛する登山鉄道(フロム)

 ベルゲンから首都オスロまで移動は、フィヨルド観光に最適な周遊券「ノルウェー・イン・ナットシェル」を利用した。ヴォスまでの鉄道と、ヴォスからグドヴァンゲンまでのバス、グドヴァンゲンからフロムまでのフェリー、フロムからミュールダールを経由してオスロまでの鉄道がすべてセットになっている。締めて1430ノルウェークローネ(約2万円)。

飛行機と空と旅 フェリーでフィヨルドをフロムへ

 昨夜は、その中間点であるフロムに滞在した。世界最長・最深のフィヨルドといわれるソグネフィヨルドから枝分かれしたアウルランフィヨルドの奥にある谷間の小さな村だ。ホテルの部屋から鉄道の発着駅が見える。これから乗るフロム鉄道は、この旅の1つのクライマックス。駅に到着すると、ダーググリーンの登山電車がホームに入線していた。

 ここフロムから高度差が860メートルある終点ミュールダールまでは全長20.2キロで、最大斜度5度の急勾配を18メートル進むごとに1メートルずつ上っていく。JRに勤務する私の友人は「これほど勾配がきつく、それでいてロープや歯車を使わない路線は世界中どこにもない」と話していた。全線開通は1944年。完成まで20年の歳月を費やした。計20カ所、総延長距離6キロに及ぶトンネルのうちの18カ所は手掘りだったという。当時の鉄道建設技術のすべてを駆使して建造されたのフロム鉄道は、世界中の鉄道技術者がいまも絶賛してやまない。

飛行機と空と旅飛行機と空と旅 (左)完成に20年の歳月を費やしたフロム鉄道(右)途中駅で陽気な車掌たちと記念撮影

“叫び”と“おこりんぼう”(オスロ)

 旅の終点である首都オスロへ到着した。ここも私にとっては、4年ぶりの再訪だ。まずはムンクの傑作『叫び』をもう一度じっくり観賞したいと思い、国立美術館へ。私は以前、この作品を間違えて解釈し、頬に両手をあてて何かを叫んでいる人物を描いたものだとずっと思い込んでいた。しかし実際はそうではない。フィヨルドのほとりを歩いて夕方ふと空を見上げたとき、血に染まったような赤い雲にムンクは自然を貫く叫びを感じる──そのことを描いた作品である。

 美術館は通常、写真を撮るどころかカメラの持ち込みも禁止だが、今回は取材ということで特別に撮影許可をもらった。ほかに『マドンナ』や『春』などムンクの作品を中心に鑑賞し、その後は駆け足でオスロ市民の憩いの場であるフログネル公園へ。園内に並ぶ数々の彫刻の中で、例の「おこりんぼう」くんの像とも再会した。

飛行機と空と旅飛行機と空と旅 (左)ムンクの『叫び』。許可をとって撮影した(右)フログネル公園の「おこりんぼう」くん

 地団駄を踏んで身体いっぱいに怒りを表現しているこの作品は、相変わらずユニークだ。けれど前回見たときよりも、怒りの表情がいくぶん和らいでいるように感じる。2011年7月にオスロの政府庁舎が爆破され、郊外の島で銃乱射事件が発生。77人という多くの犠牲者を出したこのテロ行動に彼も相当憤っていると思ったのだが。事件を契機に移民の管理強化や流入阻止を呼びかける強硬論も出たものの、ノルウェー政府は移民に対して寛容な政策をとり続けた。オスロは人口の約1割が海外からの移民だが、地元の人も他国から来た人も、公園ではみんな同じようにのんびりくつろいでいる。そんな光景に、おこりんぼうくんもホッとしているのかもしれない。

飛行機と空と旅 オスロ中心部。人口の1割は海外からの移民だ

著者プロフィール:秋本俊二

著者近影 著者近影(米国シアトル・ボーイング社にて)

 作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。

 著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。

 Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。


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