機内食の話をもう一つ。キャビンのギャレー(厨房施設)で乗客への食事サービスの準備が始まると、その何ともいえないいい香りがコクピットにも漂ってくる。そして客室でのサービスがひと通り終わる頃、客室乗務員の一人が機長と副操縦士に食事の注文を聞くため、コクピットに現れる。
「どうする?」と、機長が隣の副操縦士に聞く。「どちらか、好きなほうを」「いえ、機長からお先にどうぞ」「そう。じゃあ、私は和食で」
すると副操縦士は、必然的に洋食メニューを選択することになる。機長と副操縦士は、同じメニューの食事をとることができないからだ。必ずそれぞれ別の種類を選ばなければならない決まりになっている。その理由は──。
夏場になると、よく集団食中毒のニュースがマスコミを賑わす。臨海学校などで子供たちがいっせいに腹痛を起こし、ダウンしてしまうといったニュースだ。全員で同じ食事をとっていれば、ときに集団で食中毒になるという危険は免れない。
しかし、フライト中のコクピットで機長と副操縦士が同時にダウンしてしまっては、操縦をフォローする人がいなくなる。操縦桿を握る二人がともに食中毒で倒れるような事態は絶対に避けなければいけない。もちろん機内食作りでは専門のケータリング会社が安全衛生面にも万全を期しているが、万が一どちらかが体調を崩しても残った一人が支えられるよう、機内では別々の食事をするルールができているのだ。
ちなみに、コクピットでは二人が同時に食事をとることもない。一人が食べ終えるのを待ってから、残った一人が食べ始める。
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