30年経った今だから話せる、初代G-SHOCK開発秘話――エンジニア・伊部菊雄さんG-SHOCK 30TH INTERVIEW(3/5 ページ)

» 2012年10月22日 19時45分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

発売日の半年前の時点で、まだ確信が持てずにいた

伊部菊雄さん

――点接触で行こう、と基本構造のところを思いついて、そこが決まってからは早かったんですか?

伊部 早かったですね。私が謝って済まないなと思ったのは、何1つみんなに進捗を報告していなかったからなんですよ。81年6月から開発を始めて、周りにずうっと何も言わない状態で(実験していて)、実はこのとき1年以上経っていて。でも発売時期は決まっていて……。

――ちょっと待ってください。G-SHOCKの発売って、83年の4月ですよね。

伊部 はい。"Gravity"のGを取って「G-SHOCK」という名前にすることと、発売時期(83年4月)については、この時点でほぼ決まっていました。「これで大丈夫」という確信がまだない状態だったけど、外堀は完全に埋まっていたんです。その状態で、(基本的な部分も決まらないままで)苦しんでいるということを周りに言えなかったんです。実はこの時点でも、何1つ上司に報告していなかったんですよね。ましてや「何にもできていないから、発売日を伸ばしてほしい」なんて言えるわけもなく……。

――よく予定通りのスケジュールで発売できましたね! 6月から1年以上実験していたということは、製品発売日の半年前になっても、まだ基本構造の部分が解決したかしていないかっていう状態だったということになりますが。

伊部 これはもう時効だから話せることですが……1つだけ今も日付けを覚えているのが、(82年の)最終出社日だった12月28日に、「これが最後の設計図面変更です」といって上司の承認をもらったんです。本来なら承認が出た図面は、会社(カシオ)から実際に組み立てをするメーカーさん(の工場)に回るんです。実は私は、承認だけもらって実際の変更をしていなかったんです。28日の時点で、まだ寸法が決め切れていなくて。最終出社日だから、この日までしか上司の承認が取れないし、もう年内は工場は稼働しないことも分かっている。発売日が決まっているから、変更するとしたらこれが最後のタイミングになる。なので、図面をコピーして家に持ち帰って、自宅で相当悩んで、(12月)31日にようやく寸法を決めて、その図面をメーカーさんに渡せたんです。メーカーさんは年明けから稼働するので28日にもらっても31日でも変わらないから……もちろんそんなこと、許されないですよ。でも、最後の最後に決めた方の寸法で正解だった。たしか、ベゼルの部品の変更だったと思います。「何か問題が起きたら自分が全責任を取るから」と無理を言ったんですが、もちろん許されないですよ。品質管理とか、いろんな部署の人たちを巻き込んで、相当無理というか、危険なことをしました。……この話をしたのは初めてです。どうして話したんでしょうね。

 こんな調子でしたから、発売後は本当に怖かった。言えないこと、不安なことがいろいろあって、発売から10年は、G-SHOCKの開発話は絶対できませんでした。95〜97年頃にG-SHOCKブームが起きるんですが、その頃『少年ジャンプ』に開発ストーリーが載りまして、それが初めてG-SHOCKについて受けた取材でしたね。

米国でブームになり、日本にブームが「逆輸入」されたG-SHOCK

――G-SHOCKが「壊れない」というのはどうやって実験していたんですか? まさか製品をトイレの窓から落とすわけにいきませんよね。

伊部 商品が出てしばらくは試験器がなかったんで、最初のころはずっと落下試験をしていました。

――発売当初、G-SHOCKはどんなキャッチコピーだったのでしょう。

伊部 「衝撃に強いデジタル時計、G-SHOCK」です。

――分かりやすいけど、あいまいといえばあいまいなキャッチコピーですよね。「どれくらい衝撃に強いのか示せ」って、言われませんでしたか?

伊部 言われました。どれくらい衝撃に強いのかを数値化しなさい、と周りから言われたんですが、自由落下にこだわったために再現できないんですよ。同じ10メートルから落としても、例えば地面にぶつかったのがどこかによって衝撃も違うでしょう。JISの工業規格なども随分調べたんですが、自動車の衝撃規格とか、ありそうでないんですよね。「衝撃は規格化できないんだ!」って思い込んでましたねえ、当時。

――落下試験以外はやらなかったんですか?

伊部 破壊試験も考えましたが、破壊試験で壊れちゃったら「衝撃に強くないじゃないか」って怒られるでしょう。発売してしばらくは大して売れなかったから、あまり怒られなかったんですよね(笑)。その後90年代にブレイクしたわけですが、作った僕の想像以上に強かったので、今まで壊れたっていうクレームが来たことがないんですよ。

『メカニックマガジン』という雑誌は「破壊試験をします。壊れても壊れなくても記事にします」といって、G-SHOCKの破壊実験を敢行した。マウンテンバイクのスポークにつけて走ったが、まったく異常はなかったそう

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