カリフォルニア州ナパバレーで“ワイントレイン”に乗った秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(4/6 ページ)

» 2012年05月08日 08時00分 公開
[秋本俊二,Business Media 誠]

食後はテイスティング車両での試飲会

 ナパを出発して1時間10分が経過した。飲んで、食べて、しゃべって、笑って──そうしてまたワイングラスに手がのび、列車内のテンションはどんどんヒートアップ。身体に酔いが回っても、暗い表情で愚痴をこぼしている人はいない。みんな時を慈しむように、同じ空間で楽しいひとときを共有している。

 「海外からは、結婚記念日などで利用されるお客さまも多いですね」と、ユリちゃんが話してくれた。「若い人は誕生日会を兼ねてお友だち同士が集まったり、離れて暮らす家族が再会するきっかけとしてワイントレインを利用される人たちもいます」

飛行機と空と旅飛行機と空と旅 ワインが演出する至福のひととき。展望デッキでは日本人スタッフのユリちゃんと記念撮影

 刻々と変わる車窓の風景を楽しみながらコース料理に舌鼓を打ったあとは、30種類以上のワインを試飲できるテイスティング車両へ。カウンターを取り巻く人たちから次々とオーダーの声が上がり、バーテンダーは大地の恵みを醸した液体をグラスに注いでゆく。私の隣にいた3人グループの1人は、そのグラスを車窓にかざして目を細めた。琥珀色の液体を太陽の光と調和させいるのだろうか。そうしてまずは色を楽しんだあとで、立ちのぼる芳醇な香気を堪能し、小さくうなずいてからグラスをそっと口に運んだ。いかにも“通”といった感じの年配の男性で、彼は「フランスから来た」と私に言った。

飛行機と空と旅飛行機と空と旅 ランチのあとはテイスティング車両へ。好みのワインを試飲できる

機関車と客車の連結作業を見学

 午後1時。ワイントレインはセントヘレナに到着した。再びナパのトレインステーションへ折り返す前に、ここでちょっとユニークな光景を見ることができる。往路と復路で進行方向が反対になるため、牽引する機関車の先頭車両から最後尾車両への付け替え作業が行われるのだ。

「もしご興味があれば、撮影されますか?」

 ユリちゃんに促され、カメラを持って最後尾の車両へ急ぐ。展望デッキに出て撮影準備をしていると、先頭車両から切り離された機関車が「ポンッ、ポンッ」と天然ガスを燃やす独特の排気音を立てて移動してきた。ワイントレイン社は保有する機関車のエンジンを、従来のディーゼルから環境負荷の小さい天然ガスエンジンに切り替えている。ドアの取っ手をつかんで身を乗り出しながら近づいてきたベテラン機関士は、カメラを向ける私に笑顔で応え、手慣れた様子で客車と機関車の連結作業を終えた。これから数分後には、スタート地点のナパに向けて再び1時間30分の旅が始まる。

飛行機と空と旅飛行機と空と旅
飛行機と空と旅飛行機と空と旅 機関車の連結作業を見学。近年はディーゼルから天然ガスエンジンへの切り替えが進む

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