ジテツウ先進企業の“ワーク・サイクル・バランス”を探るジテツウは楽しい!(1/2 ページ)

» 2012年04月23日 09時30分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotoba


 人はなぜジテツウ(自転車通勤)をするのだろうか?

 ジテツウには3Kがある。長距離はきついし、汗だくになるし、道路は危ない。歩行者と交通事故を起こせば加害者になるリスクもある。だが、電車通勤にだって3Kはある。「混雑」「こもる(音楽やゲーム)」「危険(痴漢)」。

 前向きに考えよう。ジテツウは人間性を取り戻し、体も心も健康にする。

 ジテツウを「いいじゃないか」と奨励する会社、リスクがあるので「やめておこう」という会社、そして見て見ぬふりをする「黙認」な会社。ジテツウに対する会社のスタンスは3タイプに分かれ、それはどこか企業風土とつながる。

 今回は、ジテツウに取り組む上場企業2社を通じて実態を見ていこう。

“ジテツウを体感しよう”で制度づくりを推進

ジテツウ ゴールドウインのエントランス。「自転車でお越しのお客様」のための地下駐輪場がある

 まず、自転車通勤の制度化にいち早く取り組んだゴールドウイン。さまざまなスポーツブランドを掲げ、“スポーツフルなライフスタイル”商品を開発する会社だ。

 自転車乗りの間でゴールドウインといえば「SCOTT」、高級ブランド自転車の代名詞。1キロを軽く切る超軽量カーボンフレームで世界をリードし、レーサー御用達は100万円超え。「ゴールドウイン」ブランドでもウエアなどの自転車関連商品を扱う。

 東京本社の入口には「自転車でお越しのお客様へ 駐輪場がございます」という案内がある。自転車乗りにやさしい。

 「数年前、ジテツウという言葉が一般的になったころから、“御社は自転車やウエアを売っているんだから通勤はもちろん自転車ですよね?”と言われていたのですが……」と、佐藤修さん(総合企画本部 総合企画室)は苦笑する。

 その当時は自転車通勤の制度がなく、自転車好きの社員たちが「ジテツウ禁止っておかしくない?」とささやき合っていたそうだ。商品展示会で“自転車駐輪スタンド”を設置するのはせめてもの抵抗だった。

 そして3年前、満を持して自転車愛好派がジテツウの制度化を会社に掛け合った。ところが答えは「NO」。

「事故が起きたら? 加害者になったら? 判例も少ないので二の足を踏みました」

 こう振り返るのは、自転車通勤制度の管理者でもある鈴木直さん(総務部 総務グループ)。手分けをしてシマノやブリヂストンなど自転車先進企業を調べた。社内アンケートで意見も集めた。社内の自転車部の飲み会でも「制度化してください!」と社長に詰め寄った。じわじわとペダルを踏み込んだ。

 2010年3月29日に自転車通勤を制度化。「“体感して売ろう”が当社のコンセプト。自転車通勤もその考えの延長線上でいこうとなりました」と佐藤さん。初年度は9人、2年目に10人、3年目に入った2012年4月現在16人がジテツウする。

ジテツウ ゴールドウインの地下駐輪場。自転車通勤社員から月額利用料金を徴収している
ゴールドウインの自転車通勤制度のポイント
項目 詳細
対象者 自宅から本社まで2キロ〜20キロ圏内
通勤手当 通勤距離に応じて支給
禁止事項 飲酒、無灯火、過労、整備不良での運転禁止。運転中の携帯電話やヘッドフォンの使用禁止
履行義務 ヘルメットとグローブの着用。賠償責任2000万円以上の任意保険への加入。本社駐輪場への登録と駐輪。事故時の速やかな報告

まずは“ガイドライン”から始めよう

 もう1社、この誠 Styleも運営しているアイティメディア――IT系ニュースサイトの運営会社だ。ここでも「もしも」が問題になった。取りまとめ役は上田惠子さん(管理本部総務人事部長)。

「3.11以降、帰宅困難時の代替手段や、自転車好きから要望があったのです。でも“自転車使用ガイドライン”が決まるまでには議論がありました」

 自転車の事故に関する判例の少なさ、会社側への責任の範囲、個人の賠償責任保険はどこまで必要なのか。「ガイドライン」の位置付けが「積極的ではないが認めよう」というスタンスを表す。2012年春から開始、現在3〜4名が申請中だ。

アイティメディアの自転車通勤ガイドラインのポイント
項目 詳細
申請 自転車通勤申請理由(健康増進のため、帰宅困難時対応など)が必要
申請ルート 上長の承認を経て、社長決裁(上長がNOといえばNO)
保険加入制約 使用者責任(個人)と運用供用者責任(会社と個人)を明示
教育 警察庁や損害保険会社の資料をベースに徹底する
手当 通勤手当を支給(保険、駐輪場代、乗らない日の交通費)

 2社の自転車通勤への取り組みに共通するのは、事前の届出、保険への加入、ヘルメットやグローブの着用、道路交通法などの順守とマナーの徹底、そして安全教育だ。

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