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» 2012年04月06日 18時40分 UPDATE

今週末見るべき映画『アーティスト』 (1/2)

ジェットコースターに乗っているような映画、3Dの映画も確かに面白いが、サイレント風の映画は、何よりも観客の想像力を刺激する。これが映画を見る歓びの1つと思う。

[二井康雄,エキサイトイズム]
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※この記事は、エキサイトイズムより転載しています。


 昔、父親は酒を呑むたびに、古い映画の話をした。話に出てくるのは、まっさきにマルクス兄弟、ダグラス・フェアバンクス、それにルドルフ・ヴァレンチノの映画だった。

 いずれもサイレント映画ばかりだが、よほどダグラス・フェアバンクスの剣戟映画が好きだったのか、『奇傑ゾロ』や『三銃士』『ロビン・フッド』『バグダッドの盗賊』などの映画を、剣戟の身振りを交えて語った。闘牛士の身振りは、ルドルフ・ヴァレンチノだったようだ。

 フランス映画も多かったが、これは戦後に見たらしく、マルセル・カルネ監督の『天井桟敷の人々』と、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の『望郷』だった。天井桟敷の人々でのジャン・ルイ・バローのパントマイムを真似たり、望郷のジャン・ギャバンのセリフ、「ギャビー!」と叫ぶころには、もう一升瓶がカラになっていた。

 フランス映画『アーティスト』(ギャガ配給)を見て、まっさきにそのような昔の話を思い出した。1920年代、映画がサイレントからトーキーに変わるころ、サイレント映画のスター男優が若い女優と恋仲になる。やがてスター男優は凋落し、若い女優がトーキー映画の大スターになっていく。まさに『スタア誕生』と『雨に唄えば』の筋書きと時代背景をミックスしたような映画と、とりあえずは言えるだろう。

 アーティストは、2012年のアカデミー賞の作品賞、監督賞(ミシェル・アザナヴィシウス)、主演男優賞(ジャン・デュジャルダン)、作曲賞(ルドヴィック・ブールス)、衣装デザイン賞(マーク・ブリッジス)の5部門を受賞した。実際、見ていて、ほのぼの、うきうき、ああ、映画っていいなあ、とため息をつきながらの至福の時間が流れていく。

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 サイレント映画風の運び、モノクロである。音楽が効果的に入り、効果的に沈黙となる。セリフは、時折、字幕で挿入される。あとは、俳優たちの身振り手振り、表情の変化だけで、すべてを物語っていく。テリア犬と思うが、アギーという犬が登場する。仕草が可愛く、後半では主人のために大活躍する。カンヌ国際映画祭では、映画に登場する犬に与えられるパルムドッグ賞を受賞、名演だ。多くの映画の有名なシーンが彷彿とする。なにより、数々の映画へのオマージュと、映画そのものへの愛に満ちあふれている。

 1937年に作られたスタア誕生は見ていないが、1955年にリメイクされた、ジョージ・キューカー監督、ジェームズ・メイスンとジュディ・ガーランドの出た『スタア誕生』は、昔、見た。ドラマの骨子は、このスタア誕生とほぼ同じである。また、時代的には、サイレント映画からトーキーになろうとしているころだから、雨に唄えばで描かれた時代とほぼ同じだろう。

 もちろん、単にこの2作品をミックスしただけではない。映画は、サイレント風に撮られてはいるが、完全にサイレントではない。感動的なセリフが、ちゃんと用意されている。画面はモノクロだが、もとはカラーで撮影したものをモノトーンで処理し、グレーのグラデーションが陰影豊か、効果的である。

 映画に詳しい人なら、もう、全編、映画へのオマージュにうっとりするはずである。主人公の大スター、ジョージ・ヴァレンティンは、ダグラス・フェアバンクスとジョン・ギルバートの人生が投影されているし、役名はルドルフ・ヴァレンチノを思い浮かべる。ジョージに憧れて、トーキーのスター女優として成功するペピー・ミラーは、メアリー・ピックフォードやグレタ・ガルボがお手本のようである。

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 ジョージが、ペピーの鼻と唇の間に描いてやるつけぼくろは、グレタ・ガルボの『ニノチカ』だろう。ジョージの楽屋を訪ねたペピーが、スーツに腕を入れて抱かれているように見せるシーンは、フランク・ボーセージ監督の『第七天国』。ペピーは、ジョージの楽屋の鏡に「ありがとう」と書く。これは『モロッコ』で、マレーネ・ディートリッヒが演じたシーン。

 その他、『カサブランカ』や、チャップリンの『犬の生活』『街の灯』、小津安二郎の『早春』『東京暮色』、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』『サイコ』、ビリー・ワイルダーの『サンセット大通り』、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのダンスなどなどを彷彿とするプロットやシーン、音楽が巧みに引用されている。

 もちろん、多くの映画を知らなくても、小粋でシンプルなドラマである。ほのぼのとした人情味にあふれて、映画通でなくても、存分に楽しめる。

 映像と音で、これでもかこれでもかと「感動」を押しつけてくるような映画が多い。ジェットコースターに乗っているような映画、3Dの映画も確かに面白いが、サイレント風の映画は、なによりも観客の想像力を刺激する。これが映画を見る歓びの1つと思う。

 監督のミシェル・アザナヴィシウスは、2006年の東京国際映画祭で上映された『OSS117 カイロ、スパイの巣窟』(DVDのタイトルは『OSS117 私を愛したカフェオーレ』)で、グランプリを受賞している。これまた、007映画をパロディで見せた、小粋な映画であった。

 アーティストは、ルドヴィック・ブールスとともに、『OSS117』で音楽を担当したカメル・エシェークに捧げられる。まことに、映画をこよなく愛する作家の映画である。

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