「金持ち球団が強い流れに戻っている」――『マネーボール』のビリー・ビーンGMインタビュー(1/2 ページ)

» 2012年03月28日 13時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 2011年に公開された映画『マネーボール』。マイケル・ルイス氏の人気書籍を映画化したこの作品では、貧乏球団オークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGM(ゼネラルマネージャー)がセイバーメトリクスというシステムを導入して、2000年代前半に黄金期を築いた実話を描いている。

 セイバーメトリクスは各種統計から選手を客観的に評価するシステムで、野球ライターのビル・ジェームズ氏らによって1970年代に提唱された。従来注目されていなかった出塁率や長打率を評価し、盗塁や犠牲バントの効力を否定するなど、伝統的な価値観を否定するものであったことから、批判的に扱われることもあった。

 しかし、現在では多くの球団が活用しており、先日、読売ジャイアンツ元球団代表兼GMの清武英利氏が出版した『巨魁』でも、セイバーメトリクスをスカウティングで活用し、4年連続で新人王を輩出したことが記されている。

 3月28、29日に東京ドームで開催されるアスレチックスとシアトル・マリナーズの公式戦のために来日したビリー氏に、『マネーボール』後のメジャーリーグの姿を聞いた。

3月21日に発売された映画『マネーボール』のブルーレイ&DVDパッケージを持つビリー・ビーン氏

失うものがなかったから踏み出せた

――『マネーボール』で、ビリー・ビーンさんはビル・ジェイムズさんのセイバーメトリクスを参考にしてチーム作りをしたと描かれています。彼の理論自体は1980年代から話題にはなっていたのに、なぜメジャーリーグ球団は採用しなかったのですか?

ビリー 野球は伝統的なものを重んじるビジネスなので、変化がゆっくり起きるんですね。

 確かに1980年代から、ビル・ジェイムズさんや(スポーツライターの)ピート・パーマーさんが統計を基にした野球理論を提唱していました。しかし、当時は革新的と言われていたようなアプローチをとるには、「失うようなものはない」というアスレチックスのような状況だからできたと思います。

 当時、アスレチックスの収益や選手獲得用の資金は本当に少なかったんですね。だから、通常のやり方では成功は望めませんでした。そこでリスクをとったのですが、本当のリスクはセイバーメトリクスを試すことではなく、従来のやり方を踏襲することだったんですよね。

 アスレチックスで私の前にGMを務めていたサンディ・アルダーソンさんは弁護士で、法律のフィールドから野球界に入られたんですね。彼の時代からセイバーメトリクスについては検討されていました。

 サンディさんがビジネス街から来ていたことが、いろんなアイデアを試す土壌を与えてくれたのかもしれませんね。ほかのチームは、私のように元メジャーリーガーだったり、野球をプレイして育った人ばかりでしたから。

 ただ、セイバーメトリクスを導入するに当たっては、私が元メジャーリーガーであったことが有利に働いたと思います。「ビリーも選手だから分かっている」ということで説得力があったのではないでしょうか。

――そもそも球団経営のゴールは何ですか。勝利ですか、それとも収益ですか。収益をあげるためなら、強い選手ではなく人気のある選手をとることも選択肢になりそうですが、セイバーメトリクスでそれは否定されていますよね。

ビリー もちろん勝利がとても重要なのですが、同時に健全なビジネスを維持することも大切です。赤字が続けばどんなに勝っていたとしても球団はつぶれてしまうわけですから。勝利することとビジネスが回ること、両方のバランスをとることが大切ですね。そして、資本が少ないチームになればなるほど、そのバランスをとることが難しくなります。

 人気のある選手もいいのですが、強い選手の方がベターですね。強い選手はその戦いぶりから人気を得ることができるわけですから。

――セイバーメトリクスでは出塁率や長打率を重視しています。セイバーメトリクスでみた、歴代最高の投手と打者は誰ですか?

ビリー 野手ではベーブ・ルースですね。現代野球ではバリー・ボンズやアルバート・プホルス、投手はサンディ・コーファックスやペドロ・マルチネスが良いですね。どちらかというと、投手より野手の方をよく分析しているのですが。投手の場合は、野手に頼らないでアウトを取る力を重視しており、三振や被出塁率、被ホームラン率などを見ています。

 ただ言えるのは、すばらしい選手はどんな尺度から見てもすばらしいわけで、セイバーメトリクスの良いところは、一般的にすごいと思われないような選手の真の実力を測れるところです。

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