離陸して30分が経過した。リクライニングのできないシートの座り心地は? じつは、意外に窮屈さは感じない。フライト中、ずっと真っすぐに背筋を伸ばして行儀よく乗っていなければならないのかと思ったら、そうでもないのだ。
シートの背もたれは、もともとある程度の角度を保った形で固定されているので、予想していたほどは辛くない。エコノミークラスなら普通かな、といった印象である。途中、通りかかった英国人の男性クルーと話したとき、彼は言っていた。
「リクライニング機能を外したことで、故障が減りました。シートの故障って、背もたれの可動部分がイカれるケースが多いんですよ。それを空港でいちいち直していたら、次の出発が遅れてしまいます」
なるほど。空港でのターンアラウンド時間を短くして機材の稼働率を高めることは、コスト削減のために重要な戦略である。ところがクルーが立ち去ったあとで、隣に座っていた年配の女性客が私にこう耳打ちした。
「あんなこと言って。彼らは面倒なだけよ。離着陸のときに、いちいち乗客に『シートの背もたれを元の位置に』ってお願いして歩くのがね」
つい笑ってしまったが、それも「オンタイム運航に向けたクルーたちの業務の効率化」という面では大切なことなのだろう。メモしておこうと思ってテーブルを出そうとしたら、シートテーブルもないことに気づいた。テーブルの出し入れも故障の原因になる、彼らはそう考えたに違いない。やがて着陸体勢に入ると、機内に大音量の音楽が流れ始めた。すると隣の女性客が私にまた説明する。
「この音楽は、つまりね──」
「あ、分かります」と私は彼女の言葉を遮った。「着いたらとっとと降りてもらうために、寝ている乗客を先に起こしておくためでしょ」
ビンゴだったようだ。
今回レポートした機材の稼働率を上げるための取り組み以外にも、機内食などのサービスの有料化や使用料の安い郊外の“第2空港”の活用など、LCCの格安運賃の背景にはさまざまなカラクリがあります。それらをすべて解き明かした新著『みんなが知りたいLCCの疑問50』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンス・アイ新書)を上梓しました。
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作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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