“第3のエコカー”こと低燃費ガソリン車、実際の実力ってどうなの?ちょっと未来のクルマを考える

» 2012年02月15日 18時33分 公開
[岡田大助,Business Media 誠]

 減税や補助金など、環境対応車の普及促進政策もあって自動車メーカーから続々と登場するエコカー。最近では、エコに寄り過ぎた反動からなのか、「環境性能は当然、クルマとしての“走り”も両立」といったゆり戻しも起きつつあるものの、ハイブリッドカー(HV)、電気自動車(EV)、そして第3のエコカーが熾烈な開発競争を繰り広げている。

 エコカーという文脈においては、やはり気になるのが燃費。とはいえ、クルマに乗っているドライバーならば、カタログ燃費はあくまで参考値で、実走行ではあてにならないことはご存じのことだろう。

 次世代ガソリン・ディーゼル車研究会(座長:村瀬英一 九州大学大学院 教授)が、1.3リッタークラスのコンパクトカー3モデル(マツダ デミオ SKYACTIV、マツダ デミオ 13C-V、ホンダ フィット HYBRID)を使った比較実験の結果をまとめたのでレポートしたい。

燃費燃費燃費 (左から)デミオ SKYACTIV、デミオ 13C-V、フィット HYBRID

ガソリンエンジンの燃費は、10年前から2倍になっている

 最近、元気な第3のエコカー勢でいえば、2011年にマツダのデミオ SKYACTIVが「リッター30キロ」、軽自動車だがダイハツのミラ イースが「リッター32キロ」という数値を掲げてデビューしたのも記憶に新しい。国土交通省の資料によれば、10年前のガソリン乗用車の平均燃費がリッター15.3キロだったのだから、約2倍になっている【※1】。

※1

ここでは、10年前との比較のためにあえて国土交通省が定める測定方法「10・15モード」での数値を出した。なお、10・15モードの走行パターンは一般的なものと違い過ぎるということで、現在ではJC08モードでの測定に切り替えられている(2011年4月以降に形式認定を受けるクルマはJC08モード燃費値の表記が義務付けられた)。

同じクルマを測定しても、JC08モード表記のほうが10・15モード表記より約1割ほど燃費が“悪く”なるので、一般紙などで少し混乱が見られた(参照記事)が、それもおおむね落ち着いたようだ。例えば、先述のデミオ SKYACTIVもJC08モード燃費だとリッター25キロ、ミラ イースはリッター30キロになる。


 そもそもガソリンエンジンは、エンジンを使い切った状態(エンジン負荷100%)でも、燃料が持つ熱エネルギーの30%しか利用できていない。ほとんどのエネルギーは、排気損失(排ガス、30〜35%)、冷却損失(冷却水、25〜30%)などの熱エネルギーとして消えてしまっている。

 ハイブリッドカーや電気自動車が駆動力にモーターを使うのは、CO2の排出削減もさることながら、エネルギー変換効率が良いという点も大きい。例えば、EVスポーツ「テスラ ロードスター」の場合、熱エネルギーとして失われるのは2%。走行負荷抵抗などを勘案しても「統合効率は88%」という。

 村瀬教授によれば既存エンジンとの比較検証実験を通じて、マツダの次世代エンジン「SKYACTIV-G」は熱効率を40%程度まで引き上げていると分析する。また、伝達駆動系の効率向上や車体の軽量化、転がり抵抗の低減など、既存技術の組み合わせや改良によって熱効率は45%まで伸ばせると予測する。この場合、リッター40キロのガソリンエンジンの登場も見えてくるという。ただし、それ以上の進化は技術的なブレークスルーが必須になるそうだ。

コンパクトなエコカー、実走行燃費はどうなった?

 次世代ガソリンエンジンの検証実験を経て、村瀬教授らは「熱効率アップで、実際の燃費がどの程度向上したのか」を検証することとした。今回の比較対象は、次世代ガソリン車としてマツダ デミオ SKYACTIV、既存ガソリン車として2007年発売で現行モデルとしてもラインアップ中のマツダ デミオ 13C-V、ハイブリッドカーとして2010年発売のホンダ フィット HYBRIDを用意した【※2】。

1.3リッタークラス実験対象車
モデル グレード 10・15モード燃費 JC08モード燃費 発売年 価格
マツダ デミオ 13-SKYACTIV リッター30キロ リッター25キロ 2011年 140万円
マツダ デミオ 13C-V リッター23キロ リッター20.2キロ 2007年 129万円
ホンダ フィット HYBRID リッター30キロ リッター26キロ 2010年 159万円

※2

なお、ハイブリッドカーの代名詞的存在のプリウスは、車格が異なることから今回は対象にしていない。もし、継続実験が行われるのであれば1.5リッタークラスになるがトヨタ アクア(10・15モード燃費:リッター37〜40キロ、JC08モード燃費:35.4キロ)のフォローアップを期待したい。


 実験は、都市型・低速走行を想定した時速30キロ〜60キロの走行パターン、地方型・中速走行を想定した時速50キロ〜70キロの走行パターン、週末型・高速走行を想定した時速70〜100キロの走行パターンを、日本自動車研究所(JARI)のシャシダイナモ(ローラー)上と、実際に公道上で計測した。

 なお、公道での実験では、ドライバーのスキル差をなくすために、3人のドライバーがローテーションですべての実験車を運転。また、前走車に無理について行かず、交通の流れにのった運転を心がけた。運転環境は、窓を締め切り、エアコンは使用せず、乗員はドライバー1人のみ。燃費の計測は、満タン法によって測定した。

都市型走行パターンは、次世代ガソリン車が優位

 大都市部での買い物など、近距離走行が多い走行パターンを測定する都市型・低速走行実験では、平均車速が遅く、加減速やストップ&ゴーが多いことから、村瀬教授らは「ガソリン車は効率が悪くなり、減速回生によるバッテリー充電があるハイブリッドカーが有利」という仮説を立てた。

 走行したのは、墨田区錦糸町を出発し、江戸川区一之江から環状七号線を北上、板橋区板橋でUターンして環七を葛西まで南下。その後、江東区新木場や若洲を経由して錦糸町に戻る約89キロのコース。

 結果は、次世代ガソリン車がリッター21.4キロ、ハイブリッドカーが21.2キロ、既存ガソリン車が18キロとなった。仮説に反して次世代ガソリン車とハイブリッドカーが拮抗する数値となったことに対して、「混雑した市街地走行が中心のドライバーにとっても、ハイブリッドと次世代ガソリン車の燃費差は大きくないと推察される」とした。

都市型・低速走行実験結果
試験方法 ハイブリッドカー 次世代ガソリン車 既存ガソリン車
公道 21.2キロ 21.4キロ 18キロ
シャシダイナモ 28.1キロ 26.6キロ 24.4キロ
10・15モード 30キロ 30キロ 23キロ
JC08モード 26キロ 25キロ 20.2キロ

地方型走行パターンはハイブリッドカーが優位

 通勤利用などの中距離を走るような走行パターンを模した地方型・中速走行実験は、茨城県潮来から水戸駅前まで国道51号線を往復する約117キロで実施した。この実験での仮説は、「減速頻度が少なくなるため減速回生のメリットが減るだけでなく、次世代ガソリン車よりも車両重量が重くなるハイブリッドカーは優位性を発揮しにくくなる」というものだった。

 しかし、結果はハイブリッドカー(リッター25.7キロ)のほうが次世代ガソリン車(24.5キロ)よりも良かった。むしろ、21.1キロという結果を残した既存ガソリン車の善戦が目立つ形となった。

地方型・中速走行実験結果
試験方法 ハイブリッドカー 次世代ガソリン車 既存ガソリン車
公道 25.7キロ 24.5キロ 21.1キロ
シャシダイナモ 31.6キロ 32.6キロ 31.3キロ
10・15モード 30キロ 30キロ 23キロ
JC08モード 26キロ 25キロ 20.2キロ

週末のロングドライブは3モデルが拮抗

 最後に、週末ドライバーや行楽シーズンでの長距離・高速走行パターンを想定した実験を行った。走行区間は、茨城県「潮来インターチェンジ」から千葉県「四街道インターチェンジ」までの東関東自動車道を2往復する約207.6キロ。

 ハイブリッドカーにとっては、減速頻度が少ないことと車両重量のデメリットがあるものの、次世代ガソリン車にとっては中速域よりエンジン効率が低くなる速度帯のためハイブリッドカーの優位性が高まるという仮説を立てた。

 実際には、ハイブリッドカーがリッター22.1キロ、次世代ガソリン車が21.7キロ、既存ガソリン車が21.5キロと拮抗した結果になった。

週末型・高速走行実験結果
試験方法 ハイブリッドカー 次世代ガソリン車 既存ガソリン車
公道 22.1キロ 21.7キロ 21.5キロ
シャシダイナモ 27.3キロ 27.1キロ 26.5キロ
10・15モード 30キロ 30キロ 23キロ
JC08モード 26キロ 25キロ 20.2キロ

 同研究会では、以上の結果から「ハイブリッドカーと次世代ガソリン車の燃費は拮抗している」と結論付けている。ただし、プリウスやアクアといった方式の異なるハイブリッドカーや、プラグインハイブリッド、レンジエクステンダーとの比較データがないという点を考慮しなければならないが、実験そのものは実走行燃費の検証結果として参考になるだろう。

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