今週末見るべき映画『イエロー・ケーキ』

» 2012年01月27日 12時29分 公開
[二井康雄,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

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※この記事は、エキサイトイズムより転載しています。


 チラシのコピーはこうだ。「原発の燃料になる黄色い粉イエロー・ケーキの真実を暴く」。2010年のドイツのドキュメント映画『イエロー・ケーキ クリーンなエネルギーという嘘』(パンドラ配給)を見た。見終わって、背筋が寒くなった。ほとんど知らなかったウラン鉱山の実態と、環境汚染の様相が明らかになる。

 映画は、原料のウラン鉱石を採掘し、鉱床くずという廃棄物を処理し、常に放射性物質の危険に晒されている歴史を、5年の歳月をかけて、ルポルタージュする。

 原発事故で揺れた2011年の日本。正確には、天災での事故ではなく、人災と言われている。甘い危機管理や危機意識の欠如の結果なのに、昨年のような出来事は想定外と言わんばかり。事故は、天災にしろ、機械的にしろ、人的にしろ、必ず起きる。原発では、いまの技術を持ってしても、制御が困難なこともあり得る。そんな簡単なことが、いまだにお分かりにならない政府を持つ国民は、哀れだ。政府や電力会社の隠蔽体質に加えて、官僚や学者たちを、ひたすら「お金」で抱き込み、すべてを解決してきた愚かな歴史が、いま、明るみに出たようである。

 原発によって得た豊かさの裏に、核燃料となるウラン鉱の採掘や精錬、放射性廃棄物の処理に関わる人がいる。生きるためにやむを得ずウラン鉱山での職を選んでいても、常に懐疑的な人もいれば、安全と信じて従事している人もいる。もちろん、ウラン採掘のおかげで、大金を手にするのは大企業である。

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 ナミビアの鉱山で働く女性の表情が、すべてを物語る。ウラン鉱山現場で爆破作業に従事している女性は、美容院でセットしながら、「幸せとは幸せに生きること。大切なのは望んでいたものが手に入れられること」と微笑む。職場の環境や健康状態について恋人と話したことはあるかの問いに、「彼は心配してくれる。でもどうしようもないことよ」と答える。続けて、「爆薬を使う仕事だから安全とは言えない。毎日、予想もしないことが次々と起こる」。微笑みが徐々に不安な表情になる。

 大学で学びながら働いている女性もいる。鉱山の放射能やチリは安全と思うかとの問いに「安全だとは思うけど100%じゃない。毎月のように病気になる人がいる。汚れた粉塵のせいよ」。体がどの程度、被ばくしているか知っているかの問いに、「よく知らない……」と戸惑いの表情を見せる。

 そもそも、原子力産業の大企業は、現場の録音や撮影を許可しない。監督のヨアヒム・チルナーのクルーは、いくつかの隠し録音や、飛行機をチャーターしての撮影を敢行する。そして、いま、採掘の現場だった所が、どうなっているのかを、丹念に追いかける。

 原発の最後の廃棄物処理は、いまだ解決していないようである。本作で描かれた川上にあたる部分も、まったく解決のメドがたっていない。多くのお金を使っても、いまだ解決にはほど遠いと、映画は訴える。

 原発反対、廃止と声高に言う人もいるが、そうことは簡単ではないだろう。原発は、人類の生み出した、素晴らしい技術で、クリーンなエネルギーを得る方法だったはずである。ところが、不都合なことがいろいろと明らかになってきた。ここは冷静に、不都合なところを改めるべきだろう。制御できないものは見切りを付けることだ。私見だが、仮に原発をめぐるあらゆる問題が解決されたとしても、その有り余るエネルギーを、いったい何に使うのだろうか、と思う。別に、明治、大正の時代に戻れ、というのではない。高度成長のちょいと前くらいの生活だって、そう不自由はしないぞ、そんなふうにみんなが思えばいいだけのこと。

 映画は、核燃料を作らせる側と作る側の言い分を、バランスよく編集し、なお、残されている環境汚染の実態を提示する。では、どうすればいいのか。原発の不幸を知った日本の私たちに、大きな課題を突きつけているかのようである。

 世界は、ことに原子力をめぐる世界は、常に、利権を手にした富める者たちが、貧しい者たちの労働力を奪って成り立っている。そんな世界であってはならないのだが。

Story

 原発の燃料になるウラン鉱山のあった旧東ドイツの南部。国家事業とやらで、鉱山で働く人たちは、ウラン採掘の内実は知らされていなかった。ヴィスムートという会社は、世界で第3位のウラン生産高を誇っていた。

 2004年5月。何千人もの作業員が「過去」の処理をしている。数十年もの間に、放射能を含んだ廃棄物の山が1000以上もできている。ここ5年ほどで、世界のウラン市場は変化する。世界中で、30基以上の原発が建設され、150基ほどが建設予定である。ウランの価格は20倍も上昇した。

 かつての採掘作業は、立て抗に作業員が下りていって、ウラン鉱を運び上げる。掘り出したウラン鉱1トンから取れるウランは数グラムという。残りの鉱石は、有害物質を含んだ廃棄物として、ピラミッドのような形をした山となっている。ウラン精製の過程で出る放射性の汚泥は、選鉱くずと呼ばれ、窪地や廃坑に流し込まれる。

 現在、世界最大のウラン鉱は、ナミビアである。鉄道で週に2度、酸化ウランを詰めたタンクを運ぶ。イギリスの鉱山主の許可が出て、ロッシング鉱山を撮影する。鉱山は、最大の雇用を生む産業で、1300名ほどが働いている。鉱山付属の財団は、毎年、社会事業に寄付をする。女性も多く、働いている。

 支配人のマイク・リーチは言う。「4年前は経営危機で、鉱山の閉鎖も検討されたが、近くに鉱床が見つかり、2022年まで採掘を決定した。この先、ずっと核燃料を提供でき、ナミビアの経済を支える」と。

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 鉱山で働く女性たち。爆破によって、粉塵が舞い上がる。この30年で、10億トンの鉱石が掘り出され、大半は山腹に廃棄される。鉱石は、工場に運ばれ、細かく破砕され、粉末のペーストになる。これに硫酸を加え、ウランを取り出す。作業員は、毒ガス用のマスクを付けている。

 支配人は言う。「鉱山や廃棄物は問題ではない。地域社会に雇用を生んだことが大事だ。われわれがどれだけナミビアに貢献したか、今後どれだけ貢献するか。ナミビアの人たちはわれわれに感謝するだろう」と。

 オーストラリアの北部、ミラー族の土地。原住民たちは、ウラン採掘は安全だと信じさせられた。反対する住民に、大臣は政府からの圧力をかける。ミラー族の族長トビーは、やむなく採掘に同意し、1978年にレンジャー鉱山が採掘を開始する。トビーはやがて、鉱山のもたらす危険に気付く。そして遺言を娘のイボンヌに残す。「第2の鉱山を作るな。会社と闘え」と。環境保護団体のACFの支援で、イボンヌは闘いに勝つ。採掘されたウラン鉱石は、もとの地中に戻される。鉱山のある辺りは雨の多いところで、イボンヌは、雨が降って洪水になると、鉱山からいろいろと流れてくるのを心配する。

 カナダは、アメリカにウランを提供し続けている。ウラニウムという町に、カナダのキャメコとフランスのアレバという会社が、多くの鉱山を所有している。働く人たちは、会社から秘密厳守を言い渡されていて、多くは語らない。語っても、鉱山での仕事が安全だとしか言わない。

 ある家族は、子供以外、みんな鉱山で働いている。妻は言う。「ウランは地球に眠る資源の1つ。掘り出して、エネルギーにする」。夫は言う。「安全な鉱物だよ。未来があり、クリーンだ。未来のエネルギーはすべてウランになる。学校でもこれを教えるべきだ」と。しかし、ウラン鉱の選鉱くずのために、生物のいなくなった湖もある。

 再び、オーストラリア。ウエスト・アルンハイムは、ジョック族の土地だ。地主で族長のジェフリーが案内する。ウランの含有率が高いコンガラ鉱床がある。埋蔵量は1万4千トン、30億ユーロもの値打ちである。

 ジェフリーは、先祖の土地を守る。鉱床の所有権はフランスのアルバにあるが、採掘するには、ジェフリーの許可が要る。ジェフリーは言う。「なぜ、この美しい土地を掘り返す? 私たちはここで生き、汚されない環境で生き、きれいな水を飲みたい」。

 2009年秋、ドイツ政府は、原子力発電所の稼働を延長すると発表。イエロー・ケーキの需要は、どんどん伸びている。

1月28日(土)より渋谷アップリンクでロードショー


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