CX501便は定刻どおりに成田を飛び立った。香港までは約4時間30分のフライトだ。ミールサービスも終わり、私はテーブルにPCを広げてさっそく1つ目の仕事にとりかかっていた。女性旅行誌の新春号に寄稿するコラムの執筆である。
何もわざわざ飛行機の中で働かなくても。そう思う人もいるだろう。しかし私の場合は、フライト中にむしろ率先して仕事がしたくなる。物理的に移動している空間に身をおくと、なぜか頭が冴えわたるのだ。東京から大阪などに向かう新幹線の車内でもそうだし、書斎で書き物をしていてアイデアに詰まると、私はよく散歩に出る。街なかを歩き、外の景色が後方に流れ始めると、創造力や発想力が研ぎ澄まされてくるという不思議な感覚をこれまで何度となく味わった。
機内を見わたすと、ビジネス客が意外と多いことに気付く。キャセイパシフィック航空はアジア系の中でもビジネスマン層からの人気が高い。いわゆるアジア系特有の“ベタベタした”サービスはなく、必要なことを必要な人に過不足なく提供する──それがどのキャビンクルーにも共通するスタイルだ。「お仕事をされている方にはできるだけ邪魔をしないようにするのも大事なサービスです」と、クルーの1人が言っていた。しかし、PCを開いて仕事に没頭し、ちょっと疲れたなと思ったころに通りかかって「熱いコーヒーでもお持ちしましょうか?」とタイミングよく声をかけてくれる。そんなさり気ないもてなしが支持される理由なのだろう。若いクルーたちにちやほやされたいと思っている乗客には、ちょっと物足りないかもしれないが。
香港国際空港への到着まで、あと40分。CX501便が少しずつ高度を落とし始めるころには、私はコラム記事1本をきっちり仕上げていた。
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