シチズン、光を側面から取り込む腕時計「エコ・ドライブ リング」：光発電をデザインに

[岡田大助，Business Media 誠]

　太陽光などの光で発電する腕時計は一般的になってきた。しかし、その多くは光発電を機能の1つとみなし、腕時計の主役に据えることは少なかった。

　シチズン時計が2012年2月8日に発売する「エコ・ドライブ リング」は、「無限の光を吸収し、時を刻み続ける」ことを中心テーマに据え、しかも光を文字盤からではなくケース側面から取り込む、“サイドビュー”が主体となるデザインの腕時計だ。

　そもそもエコ・ドライブ リングは、2009年に行われた世界的な腕時計の見本市「バーゼルワールド」で披露されたコンセプトモデルだった。その2年後、2011年のバーゼルで製品化が予告されていたが、今回、製品版の詳細が分かった。価格は39万9000円、世界限定250本。

デザイナーの自由奔放な発想を限りなく実現

「エコ・ドライブ リングは『Discovery（発見）』をテーマにデザイナーが自由奔放に描いたものです。それは、発想の発見、世界観の発見、そしてデザインの発見でした」

　シチズン時計のアートディレクター、杉浦智司さんは、こう切り出した。これまで、エコ・ドライブ リングのテーマは「光」だといわれていたのに、「発見」とはどういうことなのか。

　まず、発想の発見。シチズン時計独自の光発電技術「エコ・ドライブ」を搭載した腕時計において、ソーラーパネルなどの技術そのものにつながる要素は、腕時計の表側に出ることはなかった。ところが、エコ・ドライブ リングでは半透明のクローム蒸着がされたパーツごしとはいえ、リング状に配置されたソーラーセルをあえて見せるという逆転の発想が取り入れられた。縁の下の力持ち的存在だったエコ・ドライブが腕時計の本質である時刻表示を差し置いて主役を張るという発想の発見だ。

　次に、世界観の発見。杉浦さんはいう。「時とは何かと問うたとき、それは過去を蓄積しながら未来につなぐ3次元の螺旋として表現できるのではないでしょうか。それは一定のリズム、波長でもあり、人間の一生に通じるものでもある」

　エコ・ドライブ リングでは、この考え方を既存の表示方法と異なる「ムーンフェイズ」で描き出した。一般的なムーンフェイズでは月の満ち欠けを小窓で描く。ところが、エコ・ドライブ リングの6時位置に配したムーンフェイズは、鏡面の“満月”を、無限大の形をした回転する“太陽の落とす陰”で隠すことで表現する。「太陽や月、地球の動きを感じることで生命は常に光とともにある」という世界観の発見だ。

　そして、デザインの発見。エコ・ドライブの受光構造をデザイン要素の1つに取り入れ、リング状のソーラーセルをコインエッジ風のギザギザな装飾で覆っている。このストライプパターンは、文字盤と裏ぶたにも連続的に描かれ、ケースをぐるっと1周する。

　また、サイドビューを美しく見せるために、ケース側面は5つのカーブサファイアガラスで構成される。それぞれ直方体のガラスブロックからの削り出しだ。また、ケースを支えるピラー（柱）はケースとバンドをつなぐラグに隠れるように配置した。

　しかもラグは、側面からの光を取り込みやすくするために中空状に、ステンレスの塊から削り出した。まるでダイヤモンドの指輪の立て爪のような造形で、ラグの内側までピカピカに磨かれている。中空状のモチーフは、尾錠にも取り入れ、統一した世界観を描いている。

持ち主が満足感を抱くこだわりのディテール

　2011年のバーゼルに再出展されたものより、製品版のエコ・ドライブ リングはさらにブラッシュアップされた。ソーラーセルが文字盤側から側面へ移動したため、文字盤のデザインの自由度が高まった。シルバーの文字盤は金属素材に由来するきらめき感を主張する。

　また、正面から見ると変哲のないバーインデックスが、角度をずらすと2時、4時、8時、10時だけアラビア数字のインデックスに変わる。ここにも「サイドビュー」というこだわりが見える。

　デュラテクト加工が施されたステンレス製ケース、無反射コーティングのデュアル球面サファイアガラスの風防、ケースサイドの5分割のカーブサファイアガラスなど部品点数が多くなりながらも防水性能は5気圧防水を確保した。サイズは44.4×15.8ミリ（ケース径×厚み）で、月差は±15秒。バンドは、パールコーティングしたブルーグレーのクロコダイルを採用した。原皮から染め上げ、厚仕立てのストラップに極太のステッチを施した。