間もなく午前11時50分を回ろうとしている。出発準備もすべて整ったようだ。時刻表に記されたNH201便の出発は11時35分。このぶんだと、ほぼ予定どおりに成田を発ち、ロンドンには定刻に到着できるだろう。そんなことを考えていたら、隣の席にいた同行者が心配そうに呟いた。
「また出発が遅れているなあ。旅客機の運航って、列車とかに比べてかなり時間にルーズですよね。私が利用する便は、いっつも予定より遅れて離陸します」
時間にルーズ? はたしてそうだろうか。彼はどうも、出発時刻というのが離陸する時間だと勘違いしているようだ。空港のタイムボードに表示された出発時刻は、じつは離陸する時間ではない。私たちが利用した11時35分発のロンドン行きNH201便はその後、12時ちょうどに離陸した。出発時間としては、これでほぼ定刻どおりである。
出発時刻とは、滑走を離れて飛び立つ時間ではなく、正しくは停留していた旅客機が動き始める時刻を指す。
スポット(駐機場)で旅客ターミナルに向かって正対して止まっている旅客機を出発させるには、滑走路の誘導路までトーイングカーでプッシュバックしなければならない。機体の周辺で作業に当たっていた整備士たちは、出発時刻の5分前になると旅客機に取り付けられていた安全装置を解除し、機体後方に移動を妨げるものがないこと、ドアがすべて閉じられロックされていることなどを確認し、ブロックアウト(前脚タイヤの輪留めの取り外し)を行う。これで出発準備は完了。より厳密にいうと、時刻表に書かれている出発時刻は、このブロックアウトタイムのことをいう。
同様に到着時刻も、旅客機が目的地の空港にランディングした時間ではない。滑走路に降り立った旅客機がそのまま旅客ターミナルに向かって地上走行し、マーシャラーの誘導にしたがってスポットに停止した時間を指す。
NH201便は現在、ロンドンへ向けて順調に飛行している。今回取り上げた以外の「疑問」についても、フライトを続けながら、また回を改めてお答えしていきたい。
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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